カテゴリ:
昨年末、いろいろあってカンボジアに2回行くことになった(詳しくは2月5日売りの『SAPIO』3月号にも寄稿している)。今回はその際に見聞きした現地事情を紹介しておきしたい。

P9120298

P9120299

上記のように、郊外の遺跡でドローン飛ばして空撮をやって、現地の良い子のヒーローになっていたオーストラリアのジャーナリストを見つけたときもビビったのだが、それ以上にプノンペン市内で驚かされたのが、中国のあまりの存在感の大きさだった。


◆◆
 
プノンペン国際空港からプノンペンSEZ(経済特区)に向かう途中の道路には簡体字の看板や中国系商店・ホテル・レストランが大量に立ち並ぶ。いちおう、カンボジアの法律では外国語の看板を出す際はクメール語の併記が義務付けられているらしいのだが、あまり守られていない(もっとも、カンボジアの社会はまともにすべての法律を守るほうが難しいくらいだが)。

ある商店に入って中国のスポーツドリンク「脈動」を買ってみたところ、店主一家は湖南省から来ていた。後述のように中国はカンボジアにインフラ整備関係で多額の援助をおこなっており、それにともなって本国からやってくる中国人労働者向けに店を出しているように見えた。

 PA310423


なかでも、プノンペン市内南東部のKoh pich (ダイヤモンド・アイランド)地区は街全体が中国系企業(カンボジア華僑資本や台湾・シンガポールなどの企業も進出している)によって開発されている「中国島」だ。

島内には、一昔前(胡錦涛時代)に中国の地方都市に多く建設された、かの国特有の安っぽいけれどド派手な建築様式の政府庁舎を思わせるシティホールや、ほぼ中国人観光客専用と思われるインチキ欧州風のショッピングモールもあり、なにやらカンボジアではなく雲南省あたりの地方都市に来たような、微妙な気分にさせられる。

PB010479
金の袋をかかえたうさぎ。かわいくない。

PB010499
シティホールの前に据えられた中国製の謎のイルカ。やはりかわいくない。

PB020519
あ、これ雲南省とかでよくみるやつだ。
 
PA300415
ガイドに連れてこられた中国人専用ショッピングモールのなかで宝石にむらがる人たち。


ほか、Koh pich地区ではシンガポールの名物高級ホテル、マリーナ・ベイ・サウンズを模した巨大ホテルや、パリの凱旋門を模したオブジェなど、バブリーな建築物の建造工事が着々と進行中である。大量の高層マンションと数百軒ともいわれる欧風別荘も建築が進んでいて、現地の情報によれば中国国内で中国国内で派手な投資ができなくなった中国人富裕層の人々が次々と不動産の「爆買い」に訪れているという。

島内の案内看板は、クメール語と英語と中国語の三か国語。中国語表記は簡体字なので、中国大陸からの影響が強いようだ。


◆◆

データを見ても、カンボジア経済における中国の存在感は明らかだ。2015年、中国によるカンボジアへの投資額は2億4100万ドルで、各国シェア1位の30.7%を占めた(ちなみに日本は3900万ドルで5%、シェア7位。数年前までシェアは1%代だった)。

援助の分野でも差がついている。日本は従来、カンボジアの最大の援助国で、同国への各国別援助額の20%程度を常に拠出してきたが、ゼロ年代後半から中国の援助額が一気に伸びはじめ、2010年にはついに日本を逆転した。現在、中国による対カンボジア援助額は日本の数倍に達し、いまやカンボジアは「国家予算全体の5%くらい」(JICA関係者談)の資金を中国に頼るに至っている。

プノンペン市の北東、トンレサップ川に、1994年に日本の援助で建設された「日本カンボジア友好橋」という橋がある(余談ながらこれは2代目で、1966年に架けられた初代は内戦時にクメール・ルージュによって爆破されている)。だが近年になり、これと並行する形で、中国が「中国カンボジア友好橋」を建設してしまった。

ほか、2023年にプノンペンで開催予定の東南アジア競技大会(SEA Games) の競技場も、中国が多額の借款を提供して建設を決定。あちこちの道だの橋だの公共施設だのもばりばり作っている。

PA300403
市内で中国企業が建設中のビル。めくれ上がったカンボジア国旗が悲しい。
 
PA300396
その工事現場の下で、中国人用のHなお店の広告を見つけた。おいおいなにやってんだ。 


◆◆

カンボジアへの投資額や援助額で日中格差がついていること自体は、仕方ない部分もある。

そもそもカンボジアは、プノンペンSEZのような経済特区を除けば賄賂なしでは(事実上)ビジネスが困難な国だ。コンプライアンスを真面目に守る先進国の企業が、悪事に手を染めてまで進出することはデメリットも大きい。実際、この国では日本のみならず欧米企業もおおむね苦戦しており、中国・韓国・台湾・マレーシアあたりの、その気になればエグい手も取れる国の企業の独壇場となっている。

また援助にしても、国の財政難のなかで日本のODA予算の全体額は縮小を続けている。

金額のボリュームで他国と競うより、人材育成や技術供与のようなソフト面で日本らしい支援をやったほうがいい、というのも現今の日本の状況に照らして考えれば悪くない方針だ。対外援助の本来の理念に照らしても、金額面で中国に抜かれることはあながち嘆くべき話でとも言い切れない。

P9100233


……ただし、やはり懸念せざるを得ないのはこうした中国の存在感が、政治に与えていく影響だろう。

カンボジアは"いちおう"民主主義国家なのだが、人民党のフンセン首相が30年近くにわたり権力を握り続けている。中国の莫大な投資と援助による利益や、それに伴う莫大な不透明資金は、フンセン・ファミリーをはじめとする権力層に思い切り流れ込んでいるとされる。

---------------------
中国から借款
中国企業が道路や橋や行政機関のハコモノを建設
建設費用の数分の一~半分くらいが賄賂的なカネに変わる
中国は政治・経済的影響力を増し、カンボジアの政治家はポケットが潤ってwin-win
---------------------

思い切り簡単に説明すすらな、こういう構図がある。地元のカンボジア人から「フンセンは中国から国に借金をさせて、そのカネをポケットに入れている」と陰口を叩かれるゆえんだ。

カンボジア国民の対日感情はかなり良好だが、政府は中国が大好きである(もっとも、多くの国における「親中」と「親日」は、白黒のどちらか一方をビックリマンシールのように貼ったり貼り返したりするものではなく、濃度の可変こそあれ並存するものなのだが)。


昨年に大きな話題になった南シナ海の件でも、カンボジア政府は中国に忠誠を尽くした。あまりソースが確かな話でもないのだが、この際に日本の大使館関係者がフンセン首相に「中国支持をやめてもらえませんか」と要請する一幕もあったそうだが、フンセンは言下に断ったという話もある。

今後、仮に東シナ海において中国が日本への侵略的な軍事行動を起こした場合も、カンボジア政府はほぼ間違いなく中国を支持するだろう。

日本は1990年代、内戦後間もないカンボジア情勢の安定のために自衛隊のPKO派遣をおこない、明石康氏を代表としたUNTAC(国際連合カンボジア暫定統治機構)にも主体的にかかわってきた(当時、日本人文民警官の殉職事件も起きている)。

現在もなお、日本はカンボジアに対して円借款・無償資金協力・技術協力を合わせて毎年100〜数百億円規模の経済援助をおこない続けてもいる。

だが、恒産なければ恒心なしという。カンボジアはいまだに貧しい国で、手っ取り早くお金をもらえる方になびくのは仕方ない部分もあり、彼らの「心変わり」を責めるのはやや酷な話でもある。

とはいえ、なんとも切ない気持ちにさせられるのが昨今の情勢への感想だ。


――――――

 上記はメルマガの記事の一部を改稿・再編集したものです。