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カンボジアでブイブイいわせすぎている中国

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昨年末、いろいろあってカンボジアに2回行くことになった(詳しくは2月5日売りの『SAPIO』3月号にも寄稿している)。今回はその際に見聞きした現地事情を紹介しておきしたい。

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上記のように、郊外の遺跡でドローン飛ばして空撮をやって、現地の良い子のヒーローになっていたオーストラリアのジャーナリストを見つけたときもビビったのだが、それ以上にプノンペン市内で驚かされたのが、中国のあまりの存在感の大きさだった。


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プノンペン国際空港からプノンペンSEZ(経済特区)に向かう途中の道路には簡体字の看板や中国系商店・ホテル・レストランが大量に立ち並ぶ。いちおう、カンボジアの法律では外国語の看板を出す際はクメール語の併記が義務付けられているらしいのだが、あまり守られていない(もっとも、カンボジアの社会はまともにすべての法律を守るほうが難しいくらいだが)。

ある商店に入って中国のスポーツドリンク「脈動」を買ってみたところ、店主一家は湖南省から来ていた。後述のように中国はカンボジアにインフラ整備関係で多額の援助をおこなっており、それにともなって本国からやってくる中国人労働者向けに店を出しているように見えた。

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なかでも、プノンペン市内南東部のKoh pich (ダイヤモンド・アイランド)地区は街全体が中国系企業(カンボジア華僑資本や台湾・シンガポールなどの企業も進出している)によって開発されている「中国島」だ。

島内には、一昔前(胡錦涛時代)に中国の地方都市に多く建設された、かの国特有の安っぽいけれどド派手な建築様式の政府庁舎を思わせるシティホールや、ほぼ中国人観光客専用と思われるインチキ欧州風のショッピングモールもあり、なにやらカンボジアではなく雲南省あたりの地方都市に来たような、微妙な気分にさせられる。

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金の袋をかかえたうさぎ。かわいくない。

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シティホールの前に据えられた中国製の謎のイルカ。やはりかわいくない。

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あ、これ雲南省とかでよくみるやつだ。
 
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ガイドに連れてこられた中国人専用ショッピングモールのなかで宝石にむらがる人たち。


ほか、Koh pich地区ではシンガポールの名物高級ホテル、マリーナ・ベイ・サウンズを模した巨大ホテルや、パリの凱旋門を模したオブジェなど、バブリーな建築物の建造工事が着々と進行中である。大量の高層マンションと数百軒ともいわれる欧風別荘も建築が進んでいて、現地の情報によれば中国国内で中国国内で派手な投資ができなくなった中国人富裕層の人々が次々と不動産の「爆買い」に訪れているという。

島内の案内看板は、クメール語と英語と中国語の三か国語。中国語表記は簡体字なので、中国大陸からの影響が強いようだ。


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データを見ても、カンボジア経済における中国の存在感は明らかだ。2015年、中国によるカンボジアへの投資額は2億4100万ドルで、各国シェア1位の30.7%を占めた(ちなみに日本は3900万ドルで5%、シェア7位。数年前までシェアは1%代だった)。

援助の分野でも差がついている。日本は従来、カンボジアの最大の援助国で、同国への各国別援助額の20%程度を常に拠出してきたが、ゼロ年代後半から中国の援助額が一気に伸びはじめ、2010年にはついに日本を逆転した。現在、中国による対カンボジア援助額は日本の数倍に達し、いまやカンボジアは「国家予算全体の5%くらい」(JICA関係者談)の資金を中国に頼るに至っている。

プノンペン市の北東、トンレサップ川に、1994年に日本の援助で建設された「日本カンボジア友好橋」という橋がある(余談ながらこれは2代目で、1966年に架けられた初代は内戦時にクメール・ルージュによって爆破されている)。だが近年になり、これと並行する形で、中国が「中国カンボジア友好橋」を建設してしまった。

ほか、2023年にプノンペンで開催予定の東南アジア競技大会(SEA Games) の競技場も、中国が多額の借款を提供して建設を決定。あちこちの道だの橋だの公共施設だのもばりばり作っている。

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市内で中国企業が建設中のビル。めくれ上がったカンボジア国旗が悲しい。
 
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その工事現場の下で、中国人用のHなお店の広告を見つけた。おいおいなにやってんだ。 


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カンボジアへの投資額や援助額で日中格差がついていること自体は、仕方ない部分もある。

そもそもカンボジアは、プノンペンSEZのような経済特区を除けば賄賂なしでは(事実上)ビジネスが困難な国だ。コンプライアンスを真面目に守る先進国の企業が、悪事に手を染めてまで進出することはデメリットも大きい。実際、この国では日本のみならず欧米企業もおおむね苦戦しており、中国・韓国・台湾・マレーシアあたりの、その気になればエグい手も取れる国の企業の独壇場となっている。

また援助にしても、国の財政難のなかで日本のODA予算の全体額は縮小を続けている。

金額のボリュームで他国と競うより、人材育成や技術供与のようなソフト面で日本らしい支援をやったほうがいい、というのも現今の日本の状況に照らして考えれば悪くない方針だ。対外援助の本来の理念に照らしても、金額面で中国に抜かれることはあながち嘆くべき話でとも言い切れない。

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……ただし、やはり懸念せざるを得ないのはこうした中国の存在感が、政治に与えていく影響だろう。

カンボジアは"いちおう"民主主義国家なのだが、人民党のフンセン首相が30年近くにわたり権力を握り続けている。中国の莫大な投資と援助による利益や、それに伴う莫大な不透明資金は、フンセン・ファミリーをはじめとする権力層に思い切り流れ込んでいるとされる。

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中国から借款
中国企業が道路や橋や行政機関のハコモノを建設
建設費用の数分の一~半分くらいが賄賂的なカネに変わる
中国は政治・経済的影響力を増し、カンボジアの政治家はポケットが潤ってwin-win
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思い切り簡単に説明すすらな、こういう構図がある。地元のカンボジア人から「フンセンは中国から国に借金をさせて、そのカネをポケットに入れている」と陰口を叩かれるゆえんだ。

カンボジア国民の対日感情はかなり良好だが、政府は中国が大好きである(もっとも、多くの国における「親中」と「親日」は、白黒のどちらか一方をビックリマンシールのように貼ったり貼り返したりするものではなく、濃度の可変こそあれ並存するものなのだが)。


昨年に大きな話題になった南シナ海の件でも、カンボジア政府は中国に忠誠を尽くした。あまりソースが確かな話でもないのだが、この際に日本の大使館関係者がフンセン首相に「中国支持をやめてもらえませんか」と要請する一幕もあったそうだが、フンセンは言下に断ったという話もある。

今後、仮に東シナ海において中国が日本への侵略的な軍事行動を起こした場合も、カンボジア政府はほぼ間違いなく中国を支持するだろう。

日本は1990年代、内戦後間もないカンボジア情勢の安定のために自衛隊のPKO派遣をおこない、明石康氏を代表としたUNTAC(国際連合カンボジア暫定統治機構)にも主体的にかかわってきた(当時、日本人文民警官の殉職事件も起きている)。

現在もなお、日本はカンボジアに対して円借款・無償資金協力・技術協力を合わせて毎年100〜数百億円規模の経済援助をおこない続けてもいる。

だが、恒産なければ恒心なしという。カンボジアはいまだに貧しい国で、手っ取り早くお金をもらえる方になびくのは仕方ない部分もあり、彼らの「心変わり」を責めるのはやや酷な話でもある。

とはいえ、なんとも切ない気持ちにさせられるのが昨今の情勢への感想だ。


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 上記はメルマガの記事の一部を改稿・再編集したものです。


 

中国人民労働者部隊、ヨルダン川西岸ユダヤ人入植地に進出!(するかも)

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某東●スポーツみたいな見出しになってしまったが、現時点ではあくまで比較的高い可能性を論じるだけの話なのでこう書くよりほかはない。

前の開封のユダヤ人の話が比較的好評だったため、イスラエル・中国両国関係の記事に注意していたら以下のような話が出てきた。私の普段のネット検索の結果を反映したらしく、Google先生の広告の表示が素敵だがそこは気にしないでほしい。

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China agrees to send 6,000 construction workers to Israel (『Al-Masdar News』)


他の報道内容もあわせてまとめると、中国・イスラエル両政府は中国籍の建築労働者多数のイスラエルへの送り出しで一致。正式合意は2月末の予定で、その後半年以内に6000人の中国人がイスラエル側に受け入れられる見込みという。

近年、イスラエルは堅調な経済発展を続けており、昨年8月の同国政府報告でも不動産価格の上昇率は年8%。イスラエル側の理屈だと、とにかく住宅が足りず建築現場が人手不足で困っているので、ぜひとも中国人労働者に来てもらいたいんだそうである。

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↑いろいろ建設中のテルアビブ市内。ワーカーの需要があるのはわかります(2016年2月安田撮影)。



こうしたニュースを聞くと、例によって「中国がゴリ押しで自国民を他国に送り込んで面倒なことをやりたがっている話か?」と思ってしまうのだが、いくつか関連報道を見る限りそうではなさそうだ。受け入れを強く要求しているのはむしろイスラエル側(の少なくとも一部の人たち)なのである。

事実、ネタニヤフ政権下のイスラエル内閣は2年前の9月にも中国人労働者2万人の受け入れを決定。ただ、このときは中国政府側と正式な協議が結ばれていなかったため、イスラエルの検事総長(当時)が「労働者が中間ブローカーに搾取される」可能性を指摘して反対したと伝わる。ゆえにこの話はしばらく宙に浮いていたが、同国財政相が昨年末からふたたび話を蒸し返しはじめ、今回の決定に至った模様である。

中國以色列草簽6千人勞工協議 杜絶人口販賣 (『澎湃新聞』)

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実のところ、今回の報道は若干引っかかるところがある。国家間の「正式合意」が2月末の予定の話が、なぜ1月5日に表に出たのだろうか? しかもこの話は中国政府が明らかにしたわけではなく、中国側諸報道を見る限りイスラエル内務省と財務省の側が勝手に発表したものらしいのだ。

事実、中国当局のオフィシャル色が強いメディアは、本件について「イスラエル現地紙『ザ・エルサレムポスト』によると」とか「ドイツの『ドイチェ・ヴェレ』によると」みたいな書き方をしている。中国の報道におけるこの手の表現は、自国政府が必ずしも同意していなかったり明確な立場を明らかにしていないときに、ひとまず事実関係を伝えたい際におこなわれる一種のお約束の文法である場合が多い。

中国はどちらかというとこの話に微妙な立場かと思われる。私がそう書く根拠は、前回2015年の中国人労働者2万人派遣の話が、本当に「中間搾取への懸念」だけの理由でポシャったのか否か疑問があるからだ。実は当時、2015年6月付けで中国側で以下のような記事が出ている。

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以色列:中國拒絶派工人幇以建約旦河西岸定居點 (観察者網)

つまり、ヨルダン川西岸のイスラエル占領地域におけるユダヤ人入植地の建設現場に、中国人労働者をガンガン入れてもらっては困りますというわけだ。

本文を読むと、イスラエルのネタニヤフ首相が中国人労働者の入植地建設への参加を求めており、この問題が両国の合意の最も大きな障害となっていたことがわかる。ちなみに言うまでもなく、中国は国連常任理事国で、公的な立場としてはパレスチナ問題についてイスラエル非難決議を支持する側である。

中国はもともとイスラエルと非常に疎遠だった(中国は第三世界の旗手たる反帝国主義の社会主義国、という顔も当事者的にはいちおう持っているのだ)が、習近平が一帯一路政策を構想中の2014年春ごろから急接近を開始した。よくよく考えてみれば、中国にとってイスラエルは軍事関連やらIT・医療関連の先端技術やら彼らが欲しいものをどっさり持っているパラダイスであり、イスラエルにとっても中国は国防上の脅威にならずカネもいっぱい払ってくれる国なので、いざ組んでみるとうれしい相手だったのだ。

だが、そんな中国とはいえ、従来のアラブ諸国との関係もそれなりに大事なので、パレスチナ問題で不用意にイスラエルの占領・入植行為を追認する動きはできない。少なくとも2015年時点ではそう判断したようである。

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↑東エルサレムのアラブ人街(2016年2月安田撮影)。

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ところが、(おそらく)そんな事情でいちどは破談になったのに、再び労働者派遣の件が決まりそうな気配の昨今だ。イスラエル側が正式合意の前に話をおおやけにしたのも、この件の既成事実化を狙った目的かと思われる。

昨年12月23日、国連安保理はアメリカの棄権によってイスラエル非難決議を1979年以来久しぶりに採択した。今回のイスラエルの動きと、中国人労働者受け入れ要求の再浮上は決して無縁の話ではあるまい。

今回の労働者6000人派遣の件について、中国政府の反応はどうか? 1月5日、中国外交部のスポークスマンは定例記者会見で意見を尋ねられてこう答えている

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――報道によると、中国は数千万人の労働者をイスラエルに派遣することで同意したといいます。これをどのように評価されますか?

具体的な事情については関係部門に問い合わせてほしい。

中国とイスラエルは国交樹立以来、両国は経済貿易・科学技術・学術などを含む各領域における実務的協力関係のなかで常にポジティヴな成果を得てきたことを強調しておきたい。中国は継続してイスラエルとともに、両国の各領域の実務的協力関係を深化させ、両国と両国の人民に幸福をもたらすことを望んでいる。


――中国の建設労働者はパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地の建設にたずさわりますか? これは中国のパレスチナ問題に対する立場に影響するのではありませんか?

中国のパレスチナ問題における立場は一貫して明らかで、変わることはない。我々は東エルサレムやヨルダン川西岸地域などのパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地でのユダヤ人入植地の建設に反対しており、国連安保理が過日に採択した2334号決議はこの問題について明確な要求をおこなっている。


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つまり、従来のパレスチナ問題に対する中国の立場を強調しただけで、「ユダヤ人入植地の建設に中国人労働者が携わることはありません」とは決して言ってないわけである。

昨今の中国とイスラエル両国の関係は、相互のビザ緩和や中国企業による投資の推進など(特にIT関連分野ではアリババ・百度・テンセント・レノボ・ファーウェイなど大手各社がイスラエルに拠点を設けている)、2015年当時と比較してもなおいっそう緊密化した。前回は難色を示した話ではあるが、今回はまあ黙認しますという姿勢とみられる。


……ヨルダン川西岸地区の占領地で、黙々とユダヤ人入植地の建物建設に励む中国人民の群れ。想像するとなかなか未来感とディストピア感が半端ない光景であり、今後の推移に注目したいところである。

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↑テルアビブ空港を埋め尽くす中国人旅行客の群れ(2016年2月安田撮影)。

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