タグ

タグ:イスラエル

中国人民労働者部隊、ヨルダン川西岸ユダヤ人入植地に進出!(するかも)

カテゴリ:
某東●スポーツみたいな見出しになってしまったが、現時点ではあくまで比較的高い可能性を論じるだけの話なのでこう書くよりほかはない。

前の開封のユダヤ人の話が比較的好評だったため、イスラエル・中国両国関係の記事に注意していたら以下のような話が出てきた。私の普段のネット検索の結果を反映したらしく、Google先生の広告の表示が素敵だがそこは気にしないでほしい。

westbank
China agrees to send 6,000 construction workers to Israel (『Al-Masdar News』)


他の報道内容もあわせてまとめると、中国・イスラエル両政府は中国籍の建築労働者多数のイスラエルへの送り出しで一致。正式合意は2月末の予定で、その後半年以内に6000人の中国人がイスラエル側に受け入れられる見込みという。

近年、イスラエルは堅調な経済発展を続けており、昨年8月の同国政府報告でも不動産価格の上昇率は年8%。イスラエル側の理屈だと、とにかく住宅が足りず建築現場が人手不足で困っているので、ぜひとも中国人労働者に来てもらいたいんだそうである。

IMG_4994
↑いろいろ建設中のテルアビブ市内。ワーカーの需要があるのはわかります(2016年2月安田撮影)。



こうしたニュースを聞くと、例によって「中国がゴリ押しで自国民を他国に送り込んで面倒なことをやりたがっている話か?」と思ってしまうのだが、いくつか関連報道を見る限りそうではなさそうだ。受け入れを強く要求しているのはむしろイスラエル側(の少なくとも一部の人たち)なのである。

事実、ネタニヤフ政権下のイスラエル内閣は2年前の9月にも中国人労働者2万人の受け入れを決定。ただ、このときは中国政府側と正式な協議が結ばれていなかったため、イスラエルの検事総長(当時)が「労働者が中間ブローカーに搾取される」可能性を指摘して反対したと伝わる。ゆえにこの話はしばらく宙に浮いていたが、同国財政相が昨年末からふたたび話を蒸し返しはじめ、今回の決定に至った模様である。

中國以色列草簽6千人勞工協議 杜絶人口販賣 (『澎湃新聞』)

◆◆


実のところ、今回の報道は若干引っかかるところがある。国家間の「正式合意」が2月末の予定の話が、なぜ1月5日に表に出たのだろうか? しかもこの話は中国政府が明らかにしたわけではなく、中国側諸報道を見る限りイスラエル内務省と財務省の側が勝手に発表したものらしいのだ。

事実、中国当局のオフィシャル色が強いメディアは、本件について「イスラエル現地紙『ザ・エルサレムポスト』によると」とか「ドイツの『ドイチェ・ヴェレ』によると」みたいな書き方をしている。中国の報道におけるこの手の表現は、自国政府が必ずしも同意していなかったり明確な立場を明らかにしていないときに、ひとまず事実関係を伝えたい際におこなわれる一種のお約束の文法である場合が多い。

中国はどちらかというとこの話に微妙な立場かと思われる。私がそう書く根拠は、前回2015年の中国人労働者2万人派遣の話が、本当に「中間搾取への懸念」だけの理由でポシャったのか否か疑問があるからだ。実は当時、2015年6月付けで中国側で以下のような記事が出ている。

sina
以色列:中國拒絶派工人幇以建約旦河西岸定居點 (観察者網)

つまり、ヨルダン川西岸のイスラエル占領地域におけるユダヤ人入植地の建設現場に、中国人労働者をガンガン入れてもらっては困りますというわけだ。

本文を読むと、イスラエルのネタニヤフ首相が中国人労働者の入植地建設への参加を求めており、この問題が両国の合意の最も大きな障害となっていたことがわかる。ちなみに言うまでもなく、中国は国連常任理事国で、公的な立場としてはパレスチナ問題についてイスラエル非難決議を支持する側である。

中国はもともとイスラエルと非常に疎遠だった(中国は第三世界の旗手たる反帝国主義の社会主義国、という顔も当事者的にはいちおう持っているのだ)が、習近平が一帯一路政策を構想中の2014年春ごろから急接近を開始した。よくよく考えてみれば、中国にとってイスラエルは軍事関連やらIT・医療関連の先端技術やら彼らが欲しいものをどっさり持っているパラダイスであり、イスラエルにとっても中国は国防上の脅威にならずカネもいっぱい払ってくれる国なので、いざ組んでみるとうれしい相手だったのだ。

だが、そんな中国とはいえ、従来のアラブ諸国との関係もそれなりに大事なので、パレスチナ問題で不用意にイスラエルの占領・入植行為を追認する動きはできない。少なくとも2015年時点ではそう判断したようである。

IMG_4902
↑東エルサレムのアラブ人街(2016年2月安田撮影)。

◆◆


ところが、(おそらく)そんな事情でいちどは破談になったのに、再び労働者派遣の件が決まりそうな気配の昨今だ。イスラエル側が正式合意の前に話をおおやけにしたのも、この件の既成事実化を狙った目的かと思われる。

昨年12月23日、国連安保理はアメリカの棄権によってイスラエル非難決議を1979年以来久しぶりに採択した。今回のイスラエルの動きと、中国人労働者受け入れ要求の再浮上は決して無縁の話ではあるまい。

今回の労働者6000人派遣の件について、中国政府の反応はどうか? 1月5日、中国外交部のスポークスマンは定例記者会見で意見を尋ねられてこう答えている

----

――報道によると、中国は数千万人の労働者をイスラエルに派遣することで同意したといいます。これをどのように評価されますか?

具体的な事情については関係部門に問い合わせてほしい。

中国とイスラエルは国交樹立以来、両国は経済貿易・科学技術・学術などを含む各領域における実務的協力関係のなかで常にポジティヴな成果を得てきたことを強調しておきたい。中国は継続してイスラエルとともに、両国の各領域の実務的協力関係を深化させ、両国と両国の人民に幸福をもたらすことを望んでいる。


――中国の建設労働者はパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地の建設にたずさわりますか? これは中国のパレスチナ問題に対する立場に影響するのではありませんか?

中国のパレスチナ問題における立場は一貫して明らかで、変わることはない。我々は東エルサレムやヨルダン川西岸地域などのパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地でのユダヤ人入植地の建設に反対しており、国連安保理が過日に採択した2334号決議はこの問題について明確な要求をおこなっている。


----

つまり、従来のパレスチナ問題に対する中国の立場を強調しただけで、「ユダヤ人入植地の建設に中国人労働者が携わることはありません」とは決して言ってないわけである。

昨今の中国とイスラエル両国の関係は、相互のビザ緩和や中国企業による投資の推進など(特にIT関連分野ではアリババ・百度・テンセント・レノボ・ファーウェイなど大手各社がイスラエルに拠点を設けている)、2015年当時と比較してもなおいっそう緊密化した。前回は難色を示した話ではあるが、今回はまあ黙認しますという姿勢とみられる。


……ヨルダン川西岸地区の占領地で、黙々とユダヤ人入植地の建物建設に励む中国人民の群れ。想像するとなかなか未来感とディストピア感が半端ない光景であり、今後の推移に注目したいところである。

IMG_5168
↑テルアビブ空港を埋め尽くす中国人旅行客の群れ(2016年2月安田撮影)。

知らぬ間に復活して知らぬ間に迫害されていた? 「開封のユダヤ人」

カテゴリ:
昨年2月、私はWIREDの仕事でイスラエルに出張したのだが、それを契機に中国のユダヤ人に興味がわいて調べてみたところ、こんな記事を見つけた。

kfjewish
↑画像クリックで『THE TIMES OF ISRAEL』の元記事へ
 
記事によれば昨年2月29日、エルサレムへ念願のアリヤー(イスラエルの地への移住)を果たした5人の中国系ユダヤ人の女性が、嘆きの壁で祈りを捧げたそうである。彼女らはいずれもイスラエルの最高ラビ法廷が設けた改宗試験に合格しており、ほどなくイスラエル国籍を取得できる見込みなのだという。

さらに調べてみると、類似の中国系ユダヤ人のイスラエル移住の記事は複数が見つかる。中国系ユダヤ人がイスラエル国防軍に入隊しましたという、なんだかわけがわからんが凄そうな話もある。

 开封犹太人庆祝逾越节 (『THE TIMES OF ISRAEL』中文版)

 开封犹太人加入以色列国防军 (『THE TIMES OF ISRAEL』中文版)


そもそも、中国には前近代に複数のユダヤ人コミュニティが存在したとされ、なかでも河南省開封のものが有名だ(開封のユダヤ人)。ただ、このコミュニティは明代には大きく衰退し、19世紀までには数百人規模に減少。清代の社会風俗を記した稗史『清稗類鈔』「宗教類」によると、彼らは「青回回教」と呼ばれており、周囲からはイスラームの一種であるかのように思われていたようだ。

もっとも、当事者たちはこの「青回回教」がイスラームだとは考えておらず、『清稗類鈔』には趙姓・金姓・艾姓など六姓七家の族人200人程度が独自の信仰を保持し、通婚も同胞の家族同士でおこなっているとする現地住民の証言が紹介されている。生活習慣や食習慣はほぼ漢人と変わらなくなっているが、彫りが深くて西方風の顔立ちの人が多いのだともいう。

ただし、彼らのコミュニティはこの時点ですでに崩壊寸前であった。やがて清末民国期になると、黄河の大洪水や社会混乱によってシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝施設)も跡形もなくなってしまい、人々の外見もほぼ漢人と変わらなくなる(こちら参照)。

やがて中華人民共和国の成立後、開封のユダヤ人は政府の民族識別工作のなかで少数民族として認めてもらえず、漢族か回族として民族登記をおこなうこととなる。その後、社会主義化と文化大革命が最後のダメ押しとなって、開封のユダヤ人はほぼ消滅状態に陥ったとされる。


◆◆

では、上記の記事でアリヤーをおこなった中国系の「ユダヤ人」たちは何者なのだろうか?

答えを言うと、彼らや彼女らは近年になって、エルサレムに本拠を置く民間団体、シャベイ・イスラエル(以下、シャベイ)によって、事実上人工的に再復活させられた人々である。このシャベイは、全世界から「ユダヤ人の子孫」を探し出してユダヤ教やヘブライ語の「再教育」を施し、イスラエルへの移民を推進しているシオニストの財団組織だ。米国系ユダヤ人のマイケル・フロイント氏が創設者かつ代表者である。

シャベイは、以前はインド北東部にいるブネイ・メナシェという人たちのイスラエル移住支援をおこなっていた(で、ブネイ・メナシェたちはヨルダン川西岸やガザにガンガン入植していた)が、例によっていろんな問題が噴出して彼らへの支援は困難になる。

そこでシャベイは2005年から、すでに伝説上の民族に近い存在と化していた「開封のユダヤ人」にミッションのターゲットを変更したらしい。同年、シャベイ代表のフロイント氏は開封を訪問。現地に数百冊の宗教書を送り、集めた住民を前に「ユダヤ人の約束の地」を目指すことの意義を熱弁した結果、現代中国に「開封のユダヤ人」のアイデンティティを復活させることに成功した。

その後、2005年から現在までの11年間に、シャベイの働きかけによってユダヤ教に改宗した100人ほどの開封出身者が、「ユダヤ人」としてイスラエルに移民したと見られている。また、開封郊外には民営のシナゴーグが復活し、モーセの出エジプトを祝うペサハ(すぎこし祭)がおこなわれ、ユダヤ教の学習に精を出す「中国系ユダヤ人」が再び現れるようになった。

dangdizhengfu


もっとも、昨年5月ごろから衝撃的なニュースが報じられはじめている。

Is China cracking down on Jewish community in Kaifeng?  (ユダヤ系米国紙『Forward』)

中國河南開封的猶太教社群,近來遭到當局打壓 (『ラジオ・フリー・アジア』中文版)

前出記事とはやや時期が前後するが、どうやら習近平政権の成立後の2014年ごろから、開封のユダヤ人コミュニティは当局による圧迫を受けているという。中国当局はシャベイの指導下にあるユダヤ教学習センターを閉鎖し、国外のユダヤ人グループによる開封訪問も禁止しはじめているとのこと。現地のユダヤ人コミュニティの成員が当局による監視や尋問を受ける例もあるようだ。

ただ、中華人民共和国においてこうした事態が発生するのは、よく考えれば「当たり前」の話でもある。

なぜなら、21世紀にイスラエルのシオニストが人為的に復活させた「開封のユダヤ人」は、中国共産党が人為的にカテゴリー分けして設定している国内55の少数民族には含まれていない。加えて、中国におけるユダヤ教もまた、仏教やイスラームのように党の管理監督下に組み込まれた全国団体を有していないので、党による支配は事実上及んでいない。

中国国内における「開封のユダヤ人」とは、非公認民族かつ非公認宗教の信者という、当局の原理原則に照らして考えるならば実にヤバい存在ということになる。

現代中国において最も政治的に敏感なポイントである民族問題と宗教問題に抵触し、加えて(当事者的には体制に敵対する気はないはずだが)イスラエルのシャベイという「国外勢力」による露骨な働きかけが明確におこなわれているともなれば、なにかにつけイデオロギッシュな習近平政権のもとで彼らが何事もなくいられるはずはない。

21世紀になってからシオニストの手で人工的に民族のアイデンティティを持たされてしまい、そのわずか10年後にさっそく習近平の手で「迫害の民」にされてしまった開封のユダヤ人(実質的にはユダヤ教に改宗した普通の漢人)というのは、なんとも現代世界情勢の悲喜劇を象徴する存在だというよりほかはなさそうだ。

ちなみに、中国当局による開封のユダヤ人迫害の件は、米国のニューヨークタイムズも報じており、在米ユダヤ人社会を中心にひそやかに問題視する動きが広がっている模様である。

めちゃくちゃ地味なニュースながら、個人的に今後の推移が非常に気になっている話だ。

P2030582
↑エルサレム旧市街の高台から眺めた嘆きの壁と岩のドーム。2016年2月安田撮影。


――――――

 上記は『東亜』2016年5月号の寄稿記事および、メルマガの記事の一部を再編集したものです。


このページのトップヘ

見出し画像
×