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カテゴリ:雑記

中国の経営者とか広東省のスラムとか立命館とか

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近日、『現代中国経営者列伝』著者の高口康太氏との対談記事をJBPressに前後編で寄稿。昨年9月の拙著『野心 郭台銘伝』の話をからめつつ。



本書は著名な中国大企業の創業者について創業年代順に8人紹介しているわけなのだが、ゆえにその顔ぶれは、アリババの馬雲(ジャック・マー)やシャオミの雷軍みたいな比較的近年のスタイリッシュ系IT社長と、文革や天安門の匂いを残した泥臭いおっさん系メーカー社長に分かれており、言うまでもなく泥おっさんの人生の方がよりいっそう面白い。

小学校の購買のおっさんから成り上がったワハハの宗慶後、職場で大小便を垂れ流すほどグダグダの社会主義的労働者しかいないボロ町工場に送り込まれた小役人出身であるハイアールの張瑞敏あたりの話は、もう最高である。言うまでもなく台湾・鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)も、この泥臭いおっさん中華社長の系譜に属する。

そこで、ちょっと興味を持って、鴻海(フォックスコン)の中国最大の製造拠点がある広東省深圳市龍華新区の百度貼吧の投稿を見ていたら、なんだかものすごくワクワクするカオスな世界が広がっていて楽しくなってしまった。ここは中国有数の殺伐シティ。住民たちのうち、日雇い労働で毎日を刹那的に生きている人たちは「三和大神」と中国のネット上で言い慣らわされており、すでに現地だけではなく広く知られつつある。

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画像・スクショはすべて『百度貼吧』「日结一天,阔以玩三天,三和大神们聚集啦」より


21世紀のイノベーション都市深圳などというカッコいい言葉を吹き飛ばす、限りなく意識の低い世界。

あんまり面白いので、次にどこかに寄稿する原稿はこの三和大神の話にしようかと思っている。龍華にかぎらず広東省の城中村は面白いのだ。アフリカ人だらけの広州の小北とか。


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ちょっと前だが、無記名ながら『週刊プレイボーイ』No.22「”本”人襲撃」欄にて辻田真佐憲さん『文部省の研究』の著者インタビューを担当して寄稿している。紙面の左端に、さりげなく『だまされないための「韓国」』の新刊紹介が入っていたのが嬉しい(こちらの新刊紹介は私が書いたわけではない)。

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インタビュー時点では森友学園問題が熱かったけれど、現在は加計学園問題も熱くなり、文科省の前事務次官が歌舞伎町の風俗に行ってましたなどという知りたくもない話が大新聞にガンガン出ちゃうほど、いまどきの文科省(文部省)はホットである。

書籍が時宜を得るとはこういうことか。


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5月19日、母校の立命館大学に呼ばれて文学部90週年記念「人文学特殊講義 作家・制作者と語る現代表現論」第6回ゲストでお話してくる。

講義後の感想レポートを読んでいると、しっかりした内容が多くて驚いた。受講態度もよく、大教室なのに途中からドタドタ入ってくる学生もいないし、寝る、私語する、なんか食う……という人も誰もいない。

ほんまに母校かここは。いまどきの学生、わしらのときよりもえらい賢うなっとるやんけ。

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ちなみに上記講義の前日夕方、自分がOBである東洋史研究会(学術系サークル)の主催でちいさな講演会をやらせてもらっている。こちらの参加者は十数人程度で、中国オタクや歴史オタクや中国人留学生が中心。

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ところが、ちょっと気になることが。聴衆に一人、話の最初から最後まで携帯をいじるか突っ伏すかしていて内容にまったく興味を示さず、開始後1時間すこし経って質疑応答が半分くらい終わったところでいきなり帰っていった黒い服の中国人(大学院生だという)が混じっていた。

ちなみに講演中に話の中休みを取ったときは、彼はいったん外に出ていき、また戻ってきている。単位がもらえるわけでもないし、興味がなければ開始10分で帰ってもなにも差し支えないような集まりなのに、なんとも不思議な行動だ。

ちょっと引っかかったので、数日後に仲のいい中国人の後輩に見解を聞いたら「中国人留学生会の人間がもぐっていて、内容を大使館に報告しているんでしょうねー」と案の定の話。中休みでいったん外へ出たのは、最後まで観察したうえで内容の報告をおこなうべきか確認しに行っていたのかもしれない。

中国大使館、いちサークルが主催のしょぼい講演会までチェックするとはなかなか勤勉である。数日前のツイッターの投稿と、講義棟やサークル棟の掲示物コーナーに貼られたサークルのビラくらいしか、このイベントの開催情報を得る手段はないはずなのだが。


こういう話が出るのもうなずけるところではある。

ある「ドロドロ本」著者の中国人の話

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以前、ある亡命中国人の著述家・P氏と会う機会があった。細かいプロフィールは伏せるが、在外華人社会では名のある人である(ただし、P氏は日本国外在住であり、日本国内でツイッターアカウントを解説したりTVに出たりしている人ではない)。

彼は中国語の演説や文章でキツいことを言っているが、総じて「まとも」な人だ。私が「現代の中国人の若者をどう思われますか? 彼らに中国民主化を担う期待は持てますか。もし持てるなら、どんな点があるでしょうか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「近年、台湾や香港の若者(の学生運動)は素晴らしいものだよ。往年、日本に留学して革命に邁進した中国人留学生たちも素晴らしかった。ただ、現在の大陸の若者は在外留学生を含めて、共産党の統治下で考えをスポイルされているし洗脳されている。実に残念だ。だが、諦めずに少しづつ意識の変化を働きかけていくしかない。たとえ何十年かかってもね」

舌鋒鋭く中国共産党を批判していても、現実的な問題点はちゃんと理解しているらしい。

事実、P氏の語り口はメリハリがあり、惹きつけられるものがあった。主張にすべて同意するかはさておき、彼が往年の中国の学生運動で大勢の人間を動かした当事者であったことも納得がいく。

もちろん、中国で学生や知識人の多くが本気で民主化の実現を信じて街に出た時代からすでに約30年が経っている。怒れる青年であった運動のリーダーたちも、いまや見た目も中身もおじさんになり、なにより性格が丸くなった。こう言っては悪いが、今後の彼らが中国の国内政治に対して重要な中心的役割を担う可能性はほとんどない。

ただ、さすがにリーダークラスの人の心を覗き込むと、往年の猛火の残り火はいくつになっても消えない。P氏もまたそんな一人だった。

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↑北京の街にいたコスプレーヤー。現代の中国は政治問題よりも若者の興味を引くことがたっぷりとある世の中である(2014年8月安田撮影)。

◆◆


ところで、このP氏。日本でも何冊か一般書の形で著書を出しているのだが、かなり過激な題名と装丁で、個人的にはちょっと敬遠したい嫌中本みたいな本が多い。当の私自身、ある知人から彼を紹介された当初は、一連の著書への偏見から会う話を断ろうかと思ったくらいだった。

だが、普段は某国で暮らすP氏は、在外民主化人士のなかでは比較的大物であり、その国の選挙権まで持つ極めて合法的な身分、まずまず大きな企業を経営するなど経済的にも困っていない。中国共産党に対してこそ鋭い口調で批判しているが、その素顔は穏健な性格と現実的な分析力を持った中国的知識人だ。

亡命中国人としてはかなり順調な後半生を歩む人が、なぜいまさら日本でアレな感じの本を売る行為に手を染めたのか。自分のキャリアに傷がつくことは考えなかったのか――? その謎は間もなく解けた。

私はP氏と仲良くなり、2時間ほど話し込む機会を得た。そこで判明したのは、P氏がほとんど日本語ができないことと、日本で彼の名で刊行された著作がほぼすべて既刊の中国語書籍の「翻訳書」であることだった。

つまり、P氏の著作は激烈な嫌中本だと思いきや、正体はおおむね普通の本だったのである。

思わぬ方面に迷惑がかかるとよくないのであくまで例えとするが、彼の中国語の原著のタイトルや装丁が仮に以下のような感じだったとする。確かに原著でも中国人が「不愉快」だとは言っているが(あくまでも例えだ)、そもそもP氏自身も中国人であり、まあそう言っていても変な感じはしない。

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だが、その本の日本版の「翻訳書」はだいたい下記のようになる(しつこいが、あくまでも仮の例えだ)。

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もちろん、私は日本市場向けに原題を変える行為自体が悪いとは言わない。地味な原典を目を引く装いの翻訳版に変えて紹介する行為は、むしろ関係者のプロの腕の見せどころだ(例えば映画『天使にラブ・ソングを…』が原題の『Sister Act』(シスターの行為)のままで公開されていたら、きっと日本であそこまでヒットしなかったに違いない)。

また、私は中国の悪口を言ってはダメだとか、「ドロドロした嫌中本」を一切出してはいけないとも思わない。著者が日本人なり、原稿を綴れるくらい日本語ができる中国人(台湾人でも韓国人でもそうだ)なら、自分の名前がついた本や記事をどういう形で世に出すかは本人の責任で判断するべきことだ。いい大人の商業活動なんだから当たり前である。

だが、中国・韓国・親日外国人あたりの話題に関する日本国内のテクストを知らず日本語もできない外国人の著作に、この手の「ドロドロ系」の演出を加える行為は果たしてフェアかという気はする。もちろん日本側の関係者は、著者にちゃんと説明をしているはずだとは思うけれど、そもそも相手は文化を異にする外国人だ。

(例えば日本人の私たちが『困った日本人』という日本社会をボヤく本を書いて、それを自分が読めない韓国語やインドネシア語で翻訳出版された際に『最低最悪の日本人 祖国侵略者のどうしようもない民族性』というタイトルで日の丸が表紙の本にされていたとして、たとえ事前に相手側から説明を受けたとしても先方の刊行意図をちゃんと把握できるだろうか?)


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また、上記に例として挙げた原書の『不愉快な中国人(仮)』が、仮に中国人の心性をぼろかすに批判した内容だったとしても、それでも原文の表現を読むと受ける印象は違ってくる。

昨年話題になった「保育園落ちた日本死ね」の話ではないが、書いた本人は本気で自国や自民族の滅亡を望んでいるわけではなく、なにか深刻な問題を訴えたくてキツい表現で自国の社会や庶民への憤りを示しているだけなのだ。

以下、上記の話に関連してちょっと引用しておこう。

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安田 (略)中国政府に批判的な中国人が現代の日本で言論で食っていく場合、いわゆる嫌中言説というか、右派の読者が喜ぶことを書く方向に行かざるを得ない場合が多いんですよ。真っ赤な表紙でドロドロした題名の書籍を出版したり、国家主義的な論者の方と連名で雑誌の見出しを飾ったりですね。そういう立場にしか商業的な需要がないので。

劉 保守的な媒体でも、自分の意見を載せてくれるならそれでいいのではないでしょうか。誰かに自分の思いが伝わるなら、形にこだわることはないでしょう?(略)

安田 もちろんその通りです。ただ、現実は残酷です。中国政府の批判だけじゃなく、自分の民族(=中国人)を日本人の視点から蔑視するような言説や、歴史修正主義的な言説への加担を求められたり、見出しや表紙の編集を通じて「そういう主張」を作られてしまう場合も多いんですよ。(略)

(略)

劉 本当に心が痛いです。中国人自身が自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判しようとする言説と、無責任な中国蔑視論は本当は異なるものであるはずですから。

出典:安田峰俊・劉燕子 「嫌中か親中か」でしか中国を語れない、日本の閉塞 (講談社現代ビジネス)

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たとえ中国語の原書では「自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判」する文章を書いていても、昨今の日本では「無責任な中国蔑視論」に変えられて世に出てしまう。その気になれば魯迅の本だって、邦題を変えて装丁やオビを工夫すればそういう雰囲気の本に仕立てることが可能だろう。結果として傷がつくのは本人の名誉だ。

私はP氏と初対面であり、自分で責任が取れない問題に無用なトラブルの種をまくのは好ましいことでもないと思ったので、日本語ができる中国人への相談することを勧めただけでそれ以上の詳しい説明は控えた。P氏は上機嫌で山手線に乗り、夕方の別の会食の予定先へと向かっていった。

……なんともモヤモヤした気持ちが残る、ある日の夕方だった。


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 上記はメルマガの記事の一部を大幅に改稿・再編集したものです。

中国人民労働者部隊、ヨルダン川西岸ユダヤ人入植地に進出!(するかも)

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某東●スポーツみたいな見出しになってしまったが、現時点ではあくまで比較的高い可能性を論じるだけの話なのでこう書くよりほかはない。

前の開封のユダヤ人の話が比較的好評だったため、イスラエル・中国両国関係の記事に注意していたら以下のような話が出てきた。私の普段のネット検索の結果を反映したらしく、Google先生の広告の表示が素敵だがそこは気にしないでほしい。

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China agrees to send 6,000 construction workers to Israel (『Al-Masdar News』)


他の報道内容もあわせてまとめると、中国・イスラエル両政府は中国籍の建築労働者多数のイスラエルへの送り出しで一致。正式合意は2月末の予定で、その後半年以内に6000人の中国人がイスラエル側に受け入れられる見込みという。

近年、イスラエルは堅調な経済発展を続けており、昨年8月の同国政府報告でも不動産価格の上昇率は年8%。イスラエル側の理屈だと、とにかく住宅が足りず建築現場が人手不足で困っているので、ぜひとも中国人労働者に来てもらいたいんだそうである。

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↑いろいろ建設中のテルアビブ市内。ワーカーの需要があるのはわかります(2016年2月安田撮影)。



こうしたニュースを聞くと、例によって「中国がゴリ押しで自国民を他国に送り込んで面倒なことをやりたがっている話か?」と思ってしまうのだが、いくつか関連報道を見る限りそうではなさそうだ。受け入れを強く要求しているのはむしろイスラエル側(の少なくとも一部の人たち)なのである。

事実、ネタニヤフ政権下のイスラエル内閣は2年前の9月にも中国人労働者2万人の受け入れを決定。ただ、このときは中国政府側と正式な協議が結ばれていなかったため、イスラエルの検事総長(当時)が「労働者が中間ブローカーに搾取される」可能性を指摘して反対したと伝わる。ゆえにこの話はしばらく宙に浮いていたが、同国財政相が昨年末からふたたび話を蒸し返しはじめ、今回の決定に至った模様である。

中國以色列草簽6千人勞工協議 杜絶人口販賣 (『澎湃新聞』)

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実のところ、今回の報道は若干引っかかるところがある。国家間の「正式合意」が2月末の予定の話が、なぜ1月5日に表に出たのだろうか? しかもこの話は中国政府が明らかにしたわけではなく、中国側諸報道を見る限りイスラエル内務省と財務省の側が勝手に発表したものらしいのだ。

事実、中国当局のオフィシャル色が強いメディアは、本件について「イスラエル現地紙『ザ・エルサレムポスト』によると」とか「ドイツの『ドイチェ・ヴェレ』によると」みたいな書き方をしている。中国の報道におけるこの手の表現は、自国政府が必ずしも同意していなかったり明確な立場を明らかにしていないときに、ひとまず事実関係を伝えたい際におこなわれる一種のお約束の文法である場合が多い。

中国はどちらかというとこの話に微妙な立場かと思われる。私がそう書く根拠は、前回2015年の中国人労働者2万人派遣の話が、本当に「中間搾取への懸念」だけの理由でポシャったのか否か疑問があるからだ。実は当時、2015年6月付けで中国側で以下のような記事が出ている。

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以色列:中國拒絶派工人幇以建約旦河西岸定居點 (観察者網)

つまり、ヨルダン川西岸のイスラエル占領地域におけるユダヤ人入植地の建設現場に、中国人労働者をガンガン入れてもらっては困りますというわけだ。

本文を読むと、イスラエルのネタニヤフ首相が中国人労働者の入植地建設への参加を求めており、この問題が両国の合意の最も大きな障害となっていたことがわかる。ちなみに言うまでもなく、中国は国連常任理事国で、公的な立場としてはパレスチナ問題についてイスラエル非難決議を支持する側である。

中国はもともとイスラエルと非常に疎遠だった(中国は第三世界の旗手たる反帝国主義の社会主義国、という顔も当事者的にはいちおう持っているのだ)が、習近平が一帯一路政策を構想中の2014年春ごろから急接近を開始した。よくよく考えてみれば、中国にとってイスラエルは軍事関連やらIT・医療関連の先端技術やら彼らが欲しいものをどっさり持っているパラダイスであり、イスラエルにとっても中国は国防上の脅威にならずカネもいっぱい払ってくれる国なので、いざ組んでみるとうれしい相手だったのだ。

だが、そんな中国とはいえ、従来のアラブ諸国との関係もそれなりに大事なので、パレスチナ問題で不用意にイスラエルの占領・入植行為を追認する動きはできない。少なくとも2015年時点ではそう判断したようである。

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↑東エルサレムのアラブ人街(2016年2月安田撮影)。

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ところが、(おそらく)そんな事情でいちどは破談になったのに、再び労働者派遣の件が決まりそうな気配の昨今だ。イスラエル側が正式合意の前に話をおおやけにしたのも、この件の既成事実化を狙った目的かと思われる。

昨年12月23日、国連安保理はアメリカの棄権によってイスラエル非難決議を1979年以来久しぶりに採択した。今回のイスラエルの動きと、中国人労働者受け入れ要求の再浮上は決して無縁の話ではあるまい。

今回の労働者6000人派遣の件について、中国政府の反応はどうか? 1月5日、中国外交部のスポークスマンは定例記者会見で意見を尋ねられてこう答えている

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――報道によると、中国は数千万人の労働者をイスラエルに派遣することで同意したといいます。これをどのように評価されますか?

具体的な事情については関係部門に問い合わせてほしい。

中国とイスラエルは国交樹立以来、両国は経済貿易・科学技術・学術などを含む各領域における実務的協力関係のなかで常にポジティヴな成果を得てきたことを強調しておきたい。中国は継続してイスラエルとともに、両国の各領域の実務的協力関係を深化させ、両国と両国の人民に幸福をもたらすことを望んでいる。


――中国の建設労働者はパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地の建設にたずさわりますか? これは中国のパレスチナ問題に対する立場に影響するのではありませんか?

中国のパレスチナ問題における立場は一貫して明らかで、変わることはない。我々は東エルサレムやヨルダン川西岸地域などのパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地でのユダヤ人入植地の建設に反対しており、国連安保理が過日に採択した2334号決議はこの問題について明確な要求をおこなっている。


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つまり、従来のパレスチナ問題に対する中国の立場を強調しただけで、「ユダヤ人入植地の建設に中国人労働者が携わることはありません」とは決して言ってないわけである。

昨今の中国とイスラエル両国の関係は、相互のビザ緩和や中国企業による投資の推進など(特にIT関連分野ではアリババ・百度・テンセント・レノボ・ファーウェイなど大手各社がイスラエルに拠点を設けている)、2015年当時と比較してもなおいっそう緊密化した。前回は難色を示した話ではあるが、今回はまあ黙認しますという姿勢とみられる。


……ヨルダン川西岸地区の占領地で、黙々とユダヤ人入植地の建物建設に励む中国人民の群れ。想像するとなかなか未来感とディストピア感が半端ない光景であり、今後の推移に注目したいところである。

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↑テルアビブ空港を埋め尽くす中国人旅行客の群れ(2016年2月安田撮影)。

知らぬ間に復活して知らぬ間に迫害されていた? 「開封のユダヤ人」

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昨年2月、私はWIREDの仕事でイスラエルに出張したのだが、それを契機に中国のユダヤ人に興味がわいて調べてみたところ、こんな記事を見つけた。

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↑画像クリックで『THE TIMES OF ISRAEL』の元記事へ
 
記事によれば昨年2月29日、エルサレムへ念願のアリヤー(イスラエルの地への移住)を果たした5人の中国系ユダヤ人の女性が、嘆きの壁で祈りを捧げたそうである。彼女らはいずれもイスラエルの最高ラビ法廷が設けた改宗試験に合格しており、ほどなくイスラエル国籍を取得できる見込みなのだという。

さらに調べてみると、類似の中国系ユダヤ人のイスラエル移住の記事は複数が見つかる。中国系ユダヤ人がイスラエル国防軍に入隊しましたという、なんだかわけがわからんが凄そうな話もある。

 开封犹太人庆祝逾越节 (『THE TIMES OF ISRAEL』中文版)

 开封犹太人加入以色列国防军 (『THE TIMES OF ISRAEL』中文版)


そもそも、中国には前近代に複数のユダヤ人コミュニティが存在したとされ、なかでも河南省開封のものが有名だ(開封のユダヤ人)。ただ、このコミュニティは明代には大きく衰退し、19世紀までには数百人規模に減少。清代の社会風俗を記した稗史『清稗類鈔』「宗教類」によると、彼らは「青回回教」と呼ばれており、周囲からはイスラームの一種であるかのように思われていたようだ。

もっとも、当事者たちはこの「青回回教」がイスラームだとは考えておらず、『清稗類鈔』には趙姓・金姓・艾姓など六姓七家の族人200人程度が独自の信仰を保持し、通婚も同胞の家族同士でおこなっているとする現地住民の証言が紹介されている。生活習慣や食習慣はほぼ漢人と変わらなくなっているが、彫りが深くて西方風の顔立ちの人が多いのだともいう。

ただし、彼らのコミュニティはこの時点ですでに崩壊寸前であった。やがて清末民国期になると、黄河の大洪水や社会混乱によってシナゴーグ(ユダヤ教の礼拝施設)も跡形もなくなってしまい、人々の外見もほぼ漢人と変わらなくなる(こちら参照)。

やがて中華人民共和国の成立後、開封のユダヤ人は政府の民族識別工作のなかで少数民族として認めてもらえず、漢族か回族として民族登記をおこなうこととなる。その後、社会主義化と文化大革命が最後のダメ押しとなって、開封のユダヤ人はほぼ消滅状態に陥ったとされる。


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では、上記の記事でアリヤーをおこなった中国系の「ユダヤ人」たちは何者なのだろうか?

答えを言うと、彼らや彼女らは近年になって、エルサレムに本拠を置く民間団体、シャベイ・イスラエル(以下、シャベイ)によって、事実上人工的に再復活させられた人々である。このシャベイは、全世界から「ユダヤ人の子孫」を探し出してユダヤ教やヘブライ語の「再教育」を施し、イスラエルへの移民を推進しているシオニストの財団組織だ。米国系ユダヤ人のマイケル・フロイント氏が創設者かつ代表者である。

シャベイは、以前はインド北東部にいるブネイ・メナシェという人たちのイスラエル移住支援をおこなっていた(で、ブネイ・メナシェたちはヨルダン川西岸やガザにガンガン入植していた)が、例によっていろんな問題が噴出して彼らへの支援は困難になる。

そこでシャベイは2005年から、すでに伝説上の民族に近い存在と化していた「開封のユダヤ人」にミッションのターゲットを変更したらしい。同年、シャベイ代表のフロイント氏は開封を訪問。現地に数百冊の宗教書を送り、集めた住民を前に「ユダヤ人の約束の地」を目指すことの意義を熱弁した結果、現代中国に「開封のユダヤ人」のアイデンティティを復活させることに成功した。

その後、2005年から現在までの11年間に、シャベイの働きかけによってユダヤ教に改宗した100人ほどの開封出身者が、「ユダヤ人」としてイスラエルに移民したと見られている。また、開封郊外には民営のシナゴーグが復活し、モーセの出エジプトを祝うペサハ(すぎこし祭)がおこなわれ、ユダヤ教の学習に精を出す「中国系ユダヤ人」が再び現れるようになった。

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もっとも、昨年5月ごろから衝撃的なニュースが報じられはじめている。

Is China cracking down on Jewish community in Kaifeng?  (ユダヤ系米国紙『Forward』)

中國河南開封的猶太教社群,近來遭到當局打壓 (『ラジオ・フリー・アジア』中文版)

前出記事とはやや時期が前後するが、どうやら習近平政権の成立後の2014年ごろから、開封のユダヤ人コミュニティは当局による圧迫を受けているという。中国当局はシャベイの指導下にあるユダヤ教学習センターを閉鎖し、国外のユダヤ人グループによる開封訪問も禁止しはじめているとのこと。現地のユダヤ人コミュニティの成員が当局による監視や尋問を受ける例もあるようだ。

ただ、中華人民共和国においてこうした事態が発生するのは、よく考えれば「当たり前」の話でもある。

なぜなら、21世紀にイスラエルのシオニストが人為的に復活させた「開封のユダヤ人」は、中国共産党が人為的にカテゴリー分けして設定している国内55の少数民族には含まれていない。加えて、中国におけるユダヤ教もまた、仏教やイスラームのように党の管理監督下に組み込まれた全国団体を有していないので、党による支配は事実上及んでいない。

中国国内における「開封のユダヤ人」とは、非公認民族かつ非公認宗教の信者という、当局の原理原則に照らして考えるならば実にヤバい存在ということになる。

現代中国において最も政治的に敏感なポイントである民族問題と宗教問題に抵触し、加えて(当事者的には体制に敵対する気はないはずだが)イスラエルのシャベイという「国外勢力」による露骨な働きかけが明確におこなわれているともなれば、なにかにつけイデオロギッシュな習近平政権のもとで彼らが何事もなくいられるはずはない。

21世紀になってからシオニストの手で人工的に民族のアイデンティティを持たされてしまい、そのわずか10年後にさっそく習近平の手で「迫害の民」にされてしまった開封のユダヤ人(実質的にはユダヤ教に改宗した普通の漢人)というのは、なんとも現代世界情勢の悲喜劇を象徴する存在だというよりほかはなさそうだ。

ちなみに、中国当局による開封のユダヤ人迫害の件は、米国のニューヨークタイムズも報じており、在米ユダヤ人社会を中心にひそやかに問題視する動きが広がっている模様である。

めちゃくちゃ地味なニュースながら、個人的に今後の推移が非常に気になっている話だ。

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↑エルサレム旧市街の高台から眺めた嘆きの壁と岩のドーム。2016年2月安田撮影。


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 上記は『東亜』2016年5月号の寄稿記事および、メルマガの記事の一部を再編集したものです。


朝鮮学校という不思議空間

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下記は 2016年12月06日配信のメルマガの記事の一部を再編集したものです。

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先日、あるイベントでブロガーのもっきー氏に会った。こちらのブログの作者だ。

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題名はネトウヨみたいだが、実はまったくそうした内容のブログではなく(こちら参照)、作者は在日コリアン(※以下「在日」と略す)三世として朝鮮学校の小学部に通った経験を持つ22歳の女性だ。

映画『GO』なんかでも描かれた、朝鮮総連系の在日子女の教育機関・朝鮮学校の日常の思い出を軽いタッチで綴っていて、文章に恨み節や差別的な表現などは見受けられない。リアルのご本人についても、ブログのノリとは違ってかなり論理的で大人っぽい人だった。

もちろんもっきー氏の母語は日本語なので、私たちとの会話にはまったく支障はないし、言葉遣いや発音の違和感すらもない。ただ、朝鮮語の単語に言及するときは発音がネイティヴ(しかもテレビなどで聞き慣れた現代のソウル音とは明らかに違う発音)になるので、どことなくエキゾチックな雰囲気を感じさせた。


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ブログを拝見したうえで話を聞いてみるに、朝鮮学校はやはり平均的な日本人にとってみれば驚きの異空間だ。

校内の表立った場所では、たとえ単語レベルでも日本語を使うと叱られる。ただし生徒だけではなく先生方も、北朝鮮から派遣されてきた人は勤務しておらず、日本で生まれ育った在日の2世3世ばかりだ。ゆえに朝校生は、北朝鮮の語法・発音に日本語のクセが混じった、独特の朝校言語を話すことになる。

例えばもっきー氏自身、語彙や発音に隔たりが大きい韓国のドラマは、字幕を見ないと理解できないことがあるという。なので「韓国人と会話したら『なんだその発音w』と笑われちゃった」「私たちは世界のどこにも通用しない言語を喋っている」と彼女は自嘲する。
 
(ただ、実際はネイティヴの北朝鮮人に対しては、韓国人よりも在日の朝校出身者のほうが言葉が通じやすい可能性もある。もっきー氏本人は確かめていないようだが、非常に気になるところだ)。

ちなみに朝鮮学校は、以前は校舎に北朝鮮の国旗を掲げていた。だが、もっきー氏が小学部に入学した翌年に小泉訪朝で拉致事件が表面化したためか、やがて校舎の外から確認できる北朝鮮国旗は消えた。外部に無用な刺激を与えることを避けたのだろう。

純粋に内部向けの場でも、彼女が小学部卒業を控えた2007年ごろには運動会の会場から北朝鮮旗が消え、かわりに統一旗が掲げられていたという。朝鮮学校の幹部層を占める総連系の在日の人々もまた、北朝鮮本国のイデオロギーの代弁者たることをこっそりとやめはじめているのかもしれない。

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事実、たとえ校内では100%の朝鮮語会話が強制されても、生徒は内輪では朝日両語のチャンポン語「チョボンマル」で話してばかりだ。しかも、これは退勤後の先生たちですら同様である。テレビをつけてもスマホを開いても豊富なジャパニーズコンテンツがあふれ、朝校生といえども服装やメイクは日本風になる。成長するに連れて、日本人との恋愛や結婚、日本籍への帰化も静かに進んでいく。

戦後71年が経ち、在日の中心は2世どころか3世の世代に移った。総連系は韓国系の在日(また、在日老華僑なども)と比べて言語やアイデンティティの固有性を保つ傾向が強いが、それでも1980~90年代生まれの3世になると、朝鮮半島は非常に縁遠い存在になる。

在日コリアンは日本の内部ではかなりメジャーなマイノリティ(なんか変な表現だが)とはいえ、「総連系」に限定すると私たちは驚くほど何も知らない。映画『GO』の主人公やもっきー氏のような、ノンポリタイプの若者層に関してはなおさらだ。

非常に刺激的で、勉強になった土曜の午後だった。


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ところで北朝鮮といえば、近ごろフェイスブック経由で興味深い報道を目にした。金日成総合大学への留学歴を持つロシアの北朝鮮専門家、アンドレイ・ランコフ氏が仏紙『Le Monde』に語った、北朝鮮が崩壊しない理由の分析である。

去核化或将导致朝鲜政权垮台  (ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)中国語版)

(↓上記記事のもとになった『Le Monde』インタビュー原文。画像クリックで元記事へ)
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以下、RFIの中国語報道の記述をベースに、意訳した要旨を箇条書きで述べよう。日本でおなじみの北朝鮮崩壊論とは、明らかに異なる視点でアプローチした同国の姿が見えてくる。

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・北朝鮮が飢餓やクーデターの危険に瀕しており崩壊寸前だという見立ては誤まりである。もちろん金政権は残酷であり、国民から恐れられているのだが、一方ここ15年間で経済は(注.北朝鮮なりに)大幅に発展した。

・現在、多くの北朝鮮国民は配給こそ得られていないが、自分でカネを儲けて食料を買うことができるようになった。これは食料の一切が配給頼りだった金日成時代や、食料難に苦しんだ金正日時代と比較してずっと「よい」社会状態であり、ゆえに金正恩の国民人気はとても高い

・経済発展によって人々が国外の自由を知り、やがて体制変革を起こす……などということは、10年前ならさておき、現在はもはや「ありえない」。なぜなら、経済発展のもとですでに形成された北朝鮮のニューリッチ層は、社会に混乱をもたらす体制変革を望んでいないからだ。

・北朝鮮のニューリッチ層や一部の官僚層にとって、現体制下で有した権益は体制の崩壊後には無効化してしまう。また、体制が崩壊すれば南北統一が視野に入るが、こうなると彼らは韓国の資本家との競争になり、到底勝ち目がない。ゆえに彼らは北朝鮮の体制の存続を望んでいる

・いわゆる「北の核」についても、北朝鮮の新興中産階層は常備軍の軍拡よりは核武装の方が費用対効果がよいと割り切り、核武装が完了すれば国家は費用を民生方面に振り向けるだろうと考えている。

・また北朝鮮当局側も、イラクのフセインやリビアのカダフィの二の舞となることを恐れている。そのために重要なのは外国からの内政干渉を排除することで、核武装はそのために最も有効な方法だ。北の当局は、核の放棄がすなわち体制継続の放棄に直結することをわかっている。

・中国は朝鮮半島の安定が第一であり、北朝鮮の核放棄のために本気の制裁はできない。核を持ち危険な北朝鮮と、内戦に陥った北朝鮮、韓国に飲み込まれた北朝鮮……という3つのシナリオはいずれも中国にとって不愉快だが、そのなかでは第一の選択肢が比較的マシなのだ。北朝鮮当局もそれをわかって好き勝手に振舞っている。

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……さて、経済発展下で「世論」を大きく左右し得るような新興中産階層が生まれ、庶民もまた国内での成功モデルであるその仲間入りを目指す(体制をぶっ壊す革命をやるより、この方がずっと安全で現実的な努力なのだ)。そして、この階層の人々は体制の維持を志向する。ゆえに、国外から見れば不条理極まりない体制が潰れず延命する。

そんな指摘は、北朝鮮の体制側の論理に取り込まれた荒唐無稽な言説だと一笑に付してよいものだろうか? だが、中国やベトナムの現地社会にある程度は深く触れたことがある人なら、こうした新興中産階層の姿と政治体制のあり方には既視感があることだろう。

思えば改革開放政策がスタートしてからしばらくの中国の社会は、ランコフが語る北朝鮮の社会とやや似た構図だった。ゆえに、国外の識者は中国崩壊論や民主化論を唱え続けたが、豊かになりはじめた新興中産階層(新富人)層は政権の転覆や民主化なんかは求めず、中国は結果的に体制を維持している。同じ東アジア文化圏の社会主義国であるベトナムも似たところがある。

(↑往年の中国も相当メチャクチャで、現在の中国B級ニュースの10倍くらいカオスな事件が頻発していた。この時代に中国ライターをやりたかったなあ)


北朝鮮の体制が崩壊した場合、日本には大量の難民が押し寄せ、現在の欧州を震撼させている難民問題がまったく対岸の火事ではなくなる。防疫体制が不十分な北朝鮮からの伝染病(結核やコレラなど)の再伝播の危険性が懸念されているほか、治安の悪化による日本人側の反発の広がりやヘイトクライムの発生なども容易に予測できる。

また、仮に北朝鮮の崩壊後に南北が統一しても韓国がそれを支えられるのか、中国やロシアは国境のすぐ向こうに米軍が駐留する状況を容認できるのかなど、他にも懸念が山積みだ。日本も韓国も中国もロシアも、わざわざ面倒ごとを増やしたいとは考えていない。

北朝鮮については、現体制を温存もしくは、同じ領域に何らかの緩衝国家政府が成立したうえで、同国当局が段階的に改革開放政策を拡大していくのが、いちばん穏健な未来と言わざるを得ないのではないだろうか。もちろん北朝鮮の人権問題は深刻だし、何より核の脅威はおそるべきものだが、体制が消滅したら消滅したで別のパンドラの箱が開くのである。

金正恩が暗殺や病気で命を落とし、後継政権が閉鎖政策を撤回する可能性も無視できない。


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ところで、仮に北朝鮮が改革開放政策に踏み切った場合、人件費がアジアで最も安く、かつ労働者が勤勉で我慢強く、日本との文化的な差異も小さい新興国がわが国のすぐ隣に生まれることになる。

かつて内戦続きだったベトナムやカンボジアが、21世紀になってから対外投資のニューフロンティアになったように、仮に北朝鮮が改革開放政策を採用すれば、面白い未来がやってくるかもしれない。平壌にちょっと土地を買うだけでウハウハになれると考えると、なかなか興味深い話だ。

事実、かつて長引く内戦とポルポト政権の虐殺政策で国土が荒廃しきったカンボジアは、いまや中華圏から不動産物件を買いに行く人が殺到しており、分譲マンションの総合開発に参入する日本企業が出ているほど、ビジネス的に熱い国に変貌している。
 
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↑プノンペン空港付近にある日系企業開発の巨大マンション、ボダイジュ・レジデンス。昨年11月の現地取材途中にたまたま立ち寄ってみたら、2017年末完成予定ながらすでに8割くらい部屋が売れており、モデルルーム見学に来ていた香港人のおばちゃんと茶飲み話ができた。
 

やがて北朝鮮がそんな土地に変わった場合、朝鮮学校の出身者は、世界で唯一日本だけが持つ貴重な人材資源に”化ける”。

北朝鮮人に近い言語を流暢に話し、幼少期から北朝鮮のアニメや絵本に触れて育ち、学校教育のなかで北朝鮮国家の内在論理を教育された日本語人材というのは、実は脱北者を除けば韓国にも中国(朝鮮族)にも存在しない。しかも朝鮮学校出身者の場合、日本語がネイティヴであり、日本社会とのカルチャーギャップを持たないという特性を持つ。ビジネス面で日本と朝鮮半島北部をつなぐうえで、究極の切り札になる存在なのだ。

ちなみに1970~80年代に日本に定住した南ベトナム難民の子孫は、近年のベトナム進出ブームのなか、企業で日本語とベトナム語の能力を重宝されているらしい。彼らの間では日越の間に立った起業の動きも活発だ。



もちろんベトナムやカンボジアとは違って、現時点での北朝鮮は国際的孤立を深める危険極まりない閉鎖国家だ。11月30日に国連安保理は6回目の制裁決議を採択した。日本も独自の制裁を検討し、韓国もこれを歓迎する姿勢を見せている。

だが、禍福は糾える縄の如しという。いつか北朝鮮が意外な未来に突き進んだとき、本稿で述べたような視点が活きるかもしれない。

日本社会のマイナーなマイノリティ、総連系在日コリアン。こっそり継続して注目しておこうかなと思う次第なのである。
 
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↑中国領の延辺朝鮮族自治州から見た北朝鮮のローカル駅。2007年8月安田撮影。 

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