中国広州の超ローカル路地裏・残念グッズ紀行

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13日まで中国広東省に出張しており、省都の広州で現地在住のライター・山谷剛史さんと合流した。

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↑街角で麻雀を打つ広州住民のみなさん(安田撮影)


念のため山谷さんについて解説すると、彼は中国を中心にアジアのIT事情ウォッチ――特にローカル電脳街のトホホなITガジェットを発掘することを趣味兼ライフワークにするという、独自の道を突き進む中国ITライターである。

どのくらい独自の道かというと、仮に透明マントを手に入れて臨終寸前の江沢民の病室に忍び込むことに成功しても「ほー、江沢民ってシャオミの携帯使ってるのかー。おっ、アプリに大衆点評を入れてる。なるほどすっげー」と、元中国最高指導者の携帯の機種と使用アプリだけを丹念に確認したら大満足して家に帰るに違いないと某同業者から噂されるほど彼は独自である。

 山谷剛史の「アジアIT小話」 (ASCII.jp)

 アジアIT闇鍋紀行 (ジセダイ)


 

で、 その山谷さんに案内されつつ広州のアングラ電脳街や城中村(=「都市の中の農村」。中国特有の事情によって形成されたスラム的な場所)をブラブラしていたところ、例によって楽しいものをたくさん発見してしまった。

中国のローカル市場にヘンな物が置いてあるのは自明のことだ。だが、事前に出現を予測していてもそれをK点越えで凌駕するヘンすぎる物体が見つかるのが中国である。以下、私と山谷さんの発掘成果をご覧ください。


【1.残念スーパー】
市内の小北地区に残念なスーパー兼ホームセンターがあった。

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やあ、ぼくプッキー。ハチミツとチーズと、本物のキャラを知らずに僕を買う中国人民が大好きさ。ちなみに頭上のリボンは取り付けがガッタガタだよ。

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激安の電熱湯たんぽ。版権・縫製・安全性と走攻守の三方向にわたってヤバさを撒き散らす逸品。

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5元のニワトリ。ネジを巻くとベコベコと飛んで走る模様。お子様の情操教育に。

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尖閣諸島の写真が無意味にパッケージに貼られた鍋。「国産品を使いませう」とのことで、中国の愛国プロパガンダがどういう層に受けているのかよくわかるというか。

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中国家電メーカー「美的(Midea)」をパクった「美白勺(MeiHdi)」のガス部品。パクリの元ネタにすらソニーやパナソニックではなく国産の美的を選ばざるを得ない自信のなさが悲しい。

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90年代のPCホラーゲームっぽい消臭剤。無意味に入った「♪」が一層怖い。Hパワーだし。


【残念路地裏商店】

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ミ●ーちゃんもどきが地獄断面を食らった赤ちゃん服。

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トイリート。

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瞳孔が開いたガン決まりのネズミと異常に手足が長いドラと謎のピンクの豚。ダメゼッタイ。

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アナ雪のパッケージの箱の中に入ったパネマジ人形。ありのままでは許されないこともある。


【残念ファーストフード】

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中国語でマックは麦当労、KFCは肯德基。なので本店はマクタッキー(MCK)。なんとここが全国チェーンの本店であるという。東京でいうと鶯谷のラブホ街の裏路地みたいな場所なのだが……?

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ポテトを買ってみたら油が古くて明らかにヤバい味。言葉通りのジャンクフードを体現する。

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なんと公式ホームページを持っていると主張。なのにURLにアクセスすると開けないっぽい(クリックは自己責任→ www.maikenji.com )。ちなみに下に敷いてある紙には「この紙に飲食物を接触させないでください」と書かれていた。おしゃれな印刷をしたはいいが、安全性が保証されたインクを使うコストをかけられなかった模様。ポテトが紙に触れたらアウトである。



ちなみに上記で紹介した残念写真の数々は非常にディープな地域で撮影したものばかりであり、いまどきの広州は(実に名残り惜しいことに)普通の場所だとマトモなものの方が多い。なのでくれぐれも現代中国社会を誤解しないでいただきたい。

でも、こういうのを見つけるのは実に楽しいのである。
 

飛騨古川に集まる『君の名は。』聖地巡礼中国人(写真多し)

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8日から出張で、香港経由で広東省に来ている。

関西空港から香港行きのキャセイパシフィックの機内でも、いまだに『君の名は。』が上映のラインナップに入っていた。中華圏でも人気である同作を私が見たのは2回目だけれど、むしろ1人で集中して見られたせいか映画館で見たときよりも好印象だった。本作はブームになってから童貞ファンタジーだとか批判も出たりしていたのだが、現実は汚いことばっかりなんだからアニメでは美しい世界を見させてもらったっていいじゃないか。

ちなみに私の搭乗機は、おそらく修学旅行と思われる京都北部の某高校の生徒たちが大量に乗り込んでいた。ほぼ間違いなく、男女でキャッキャウフフしながら機内でも写真を撮り合って青春の思い出を刻んでいる素敵なグループと、一人でヘッドホンつけてアニメ見てる寂しいやつとの残酷な階層社会になっていたと思われる。

スクールカースト下位組男子がんばれ超がんばれ。でも、現実で三葉と出会って付き合えるのはキャッキャウフフ組のほうだから、そこは残念ながら諦めてくれ。たとえ将来、大企業に入ろうと金持ちになろうと決して挽回できないものがこの世には厳然として存在するのだ(ため息)。

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↑キャセイパシフィック航空の機内で安田撮影


で、先だって2月3日に岐阜県に出張して、下記リンクのような内容を文春オンラインに寄稿した。

中国(あと台湾・香港も)からわざわざ飛騨古川までアニメ映画の聖地を見に来るような人は、品が良くてお金持ちでカップル&家族連れ多し。やはり残酷な現実を突きつけられる話である(もっとも、彼らは巷で不安が煽られている外国人観光客のマナー問題とはかなり縁遠いクラスタに属する人たちなので、インバウンド受け入れ的な側面から見れば基本的にはいいことが多いはずだ)

『君の名は。』聖地に“リア充”中国人集団が殺到中 

内容はリンク先を読んでもらうとして、こちらでは記事中に入り切らなかった写真を紹介していくことにしよう。


 【飛騨古川駅】

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↑私が乗ってきた特急『ひだ』に乗り込む、観光帰りの人たち。ほとんど外国人客だ。

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↑作中で主人公の瀧が、司と奥寺先輩を連れて聞き込みをおこなっていたシーンで出てくるタクシー乗り場。



【飛騨古川市街地】

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↑手前から道路左側に見える4人の人影はすべて中国人。親子連れだった。

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↑浙江省から来たカップル(右)。ちなみに奥は日本人の聖地巡礼者。

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↑飛騨市側は、中国語(繁体字・簡体字)や韓国語で聖地巡礼専用マップを準備。



【まちなか観光案内所】

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↑上に写っている3人はすべて中国人。左の女性のように、一人旅の女性客もけっこういる。

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↑観光案内所内で、来訪者に来た場所のスタンプを押してもらうコーナー。台湾・上海・香港が濃い。



【味処「古川」】

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↑聖地巡礼ノートを置いてお客さんを呼び込む、食堂兼土産物屋。

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↑香港から来ました。

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↑四川省から来ました。你是哪個?

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↑名古屋・下呂・高山・古川のルートで回ったらしい中国人4人組。



【飛騨市図書館】

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↑主人公たちが糸守町の情報を得るために立ち寄った図書館のモデルになった。

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↑マナーの遵守を呼びかけつつ受け入れ。英語と中国語の説明も出したほうがいいようには思う。

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↑香港から来ました。「の」は香港人や台湾人も面白がってよく使います。

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↑台湾から来た。

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↑三葉の歩みをたどって。北京⇔飛騨。

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↑「聖地巡礼」はすでに中国語になっている。

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↑中国愛をアピールされても困るんだが。

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↑「君のは」。日本語難しいです。


飛騨市に聞くと、香港や中国のほかタイあたりのTV局からも取材が来たとのことだ。



……ところで聖地巡礼といえば、私の地元の近所の滋賀県豊郷町も忘れないであげてください。『けいおん』放送からすでに10年近くが経ち、街がさびれています。

どうにかならんのけ?

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在米華人「中国人権問題に無関心っぽいトランプを応援したら裏切られたでござる」という話

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表題のような話を、1月29日付けの文春オンラインに寄稿しました。今後も定期的に寄稿することになると思います。

 トランプ当選を応援したのに裏切られた! 「親中共派」在米中国人たちの憂鬱 (文春オンライン)

昨年の大統領選当時、在米華僑(中国系アメリカ人)のなかには一定の熱いトランプ支持層が存在しており、またその多くは親中国政府派の人々であったという。

トランプはどう考えても中国の人権問題や民主化問題に興味がありそうには見えず、また彼はビジネスマンなので「取引(ディール)」次第で南シナ海問題その他もろもろについても上手く話がつくかもしれない。

加えて、グリーンカードや米国籍を持っている合法的身分の中国人移民にとって、トランプが主張する不法移民排斥はむしろ願ったりの話だ。人種差別うんぬんという話も大して気になることではない(中国大陸のみならず香港・台湾も含めた華人系の人たちが、他のアジア人やアフリカ人・ヒスパニック・ムスリムなどに対して結構ナチュラルに差別的な目線を持ちがちであることは、現地を知っている人ならよく知っている話だろう)。

ここらへんが、昨年11月の大統領選時点までの、親中国政府系在米華僑の思惑であったようだ。

以下、在米華僑のトランプ応援団サイト『Chinese Americans for Trump(CAFT)』の公式ホームページからのスクリーンショット引用の形で、昨秋のトランプ当選のためにやたら頑張っていた華僑のみなさんの勇姿をご紹介しておこう。

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まさにノリノリであった。事実、町山智浩さんか冷泉彰彦さん(いま出先にいるので正確な資料が手元にないのだが多分町山さん)のいずれかのエッセイかご著書でも、華僑系団体が航空機をチャーターして空に横断幕をはためかせていたといったトランプ集会の現場レポートが紹介されていたように思う。

当時のトランプ支持中国人たちについては、下記の動画も面白い。中国語の「我認為~」のアクセントで「I think...」と発音しながらトランプ当選をうったえていたメガネのおっさん(インタビュー2人目)が実にナイスだ。




だが周知の通り、当選後のトランプは蔡英文と直電するわ対中強硬派を政権入りさせるわと、中国にとっては悪夢のような言動を連発している(日本もトランプに困惑しているが、中国はもっと困っているのだ)。彼を支持していた華僑たちもずいぶん困ってるらしい……という話である。

調子こいて魔人ブウを呼び出したら自分の街を破壊されたみたいな実にしょっぱい話なのだが、詳しくは文春オンラインでお読みいただければと思います。


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ある亡命中国人漫画家の『ワイルド・スワン』

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私は中国人や台湾人から話を聞くのが好きである。特に都会の現代っ子の若者からではなく、そこそこ歳をとっている人(40代以上)や、若者でも両親や一族との仲がよくて昔の話をよく聞いている人がいい。なぜなら彼は、現在の社会階層や経済力にかかわらず、いかなる人であっても本人や家族がそれぞれものすごい過去の歴史を抱えているからだ。

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↑鄧小平(中央)がおこなった改革開放政策(右)と天安門事件(左) 。これらにより中国の社会は「安定」した。(Copyright:辣椒)  

例えば私の数歳年上の台湾人の友人は、お父さんが外省人1世の元軍人(ただし参軍は戦後)でお母さんがインドネシア華僑。ご家庭は1950年代まで国民党の残党が戦っていたビルマ東北部にも何か縁があるらしい。2015年夏に『週刊プレイボーイ』の抗日戦争勝利70週年記事でお父さんに取材させてもらったときは、台湾に住む「中国人」の歴史観や国際認識を聞かせてもらって非常に面白かった。

また、別の台湾人の友人はおじいさんが浙江省出身で国共内戦を戦った中華民国軍人で、お父さんが外省人2世の国民党支持者、お母さんが本省人の民進党支持者で、選挙のたびに家のなかでプチ抗争がはじまるのだという。

ほかに中国大陸でも、山西省の閻錫山軍閥の財務高官の娘の子で、満洲旗人の血も引く貴族の出にもかかわらず、社会主義革命と文革で人生が一変した李さんという人がいる(拙著『境界の民』「黒いワイルド・スワン」という章で詳しく書いたので、知りたい人は読んでみてほしい)。

東西線沿線の某繁華街でチャイナパブを経営している上海出身の50歳前後の女性は、老紅軍(中国革命に参加した兵士)の娘で子ども時代は軍人コミュニティの特権的な環境で育ち、上海大学卒業後に青年士官と結婚したが離婚。傷心を抱えつつ、当時はあこがれの国だった日本にやってきて、いろいろ苦労しているうちにチャイナパブのママさんにおさまってしまった。彼女は上海に残ったり他国へ移民した親戚や友人がけっこう出世するなか、自分の人生に思うところもあるようだが、「日本は暮らすだけなら環境がいいからまあいっか」と割り切って、今日も日本の疲れたシャチョーさんを相手に水割りを作っている。

戦後70年以上にわたり政情が安定している日本と違い、中国の安定はせいぜいここ四半世紀、文革終了から数えても40年ほどの話だ(台湾の場合も、民主化からわずか30年も経っていない)。中国人や台湾人にとって、動乱や政治迫害はごく身近な過去であり、また場合によっては現在進行形でわが身に降りかかるものですらある。

ゆえに、彼らの話は面白い。本人やたった一世代前の人が動乱の当事者であり、話の迫力が違うからだ。ユン・チアンの『ワイルド・スワン』さながらの物語は、動乱の時代を生きていた中国人なら、どの家でも形は違えど似たような話があった。

「面白い」といって不謹慎ならば「興味深い」と言い換えても構わない。


【ある亡命中国人漫画家の著作】

以下、本稿で著書を紹介する中国人漫画家・辣椒も、そうした興味深い人生を余儀なくされた一人だ。

中国のウェブ上で人気の風刺漫画家だった彼は、やがて習近平政権下でご政道批判が一線を超えたとみなされたことで、事実上の日本亡命を余儀なくされた。そんな彼の日本での初の単行本が下記である。


 
本書は4コマ漫画であり、辣椒本人が中国国内で当局から受けた弾圧の実態、習近平本人の個性やネット世論工作を用いた個人崇拝の演出、中国抗日ドラマや反日教育の裏事情、日本や台湾の政治への辣椒自身による論評、中国の「紅白」に相当する大型番組・春聯の政治的な裏事情、人民解放軍の裏事情、辣椒の両親の物語――と、内容は多岐に及ぶ。

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↑辣椒が描く現代中国の女性のイラストはけっこう色っぽくて好きである。作中には習近平の娘・明沢も美人設定で登場する(Copyright:辣椒/新潮社) 

辣椒はネット出身の風刺漫画家であり、ネット言論統制の批判や抗日ドラマの裏事情の暴露といった話は、数年前まで中国のネット上に存在した「いちびり精神」を正しく継承している感があって面白い。

いっぽうで第9話で展開される日本の安倍政権や反安保デモについての話は、やや生臭さが強くて個人的にはエピソードの収まりがよくないと感じる(むろん、私も往年の反安保デモの参加者たちはちっとも好きではなく、その主張にもあまり賛同する気になれないのだが)。

やはり本書において別格に興味深いのは、まず本人の実体験にもとづく当局からの弾圧の詳細についてだろう。中国の民主派の人々が「中国版ゲシュタポ」と陰口を叩く国保局員による尋問「被喝茶」(問題人物に対してお茶を名目に面談をおこない圧力をかける行為)や、それを受けた側の安全対策、実際に拘束された際の獄中描写などが、当事者によるマンガのかたちで視覚的に知れるのは極めて貴重だ。

また、私個人としては最終章の両親の話が心を打つ。

文革世代であった彼の両親は、当時は完全な辺境だった新疆ウイグル自治区に下放され、そこで辣椒をもうける。辣椒はなかなか両親と同居できなかったが、深く愛されて育ったことは本書中の描写からも明らかだ。

その後、彼が日本亡命を余儀なくされた後に母をガンで失い、葬儀の様子をネット動画を通じて眺めざるを得なかったエピソードは、大所高所に立ったどんな政治批判よりも強烈に現代の中国の問題点を描き出しているように思う。

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↑新疆を開拓させられた辣椒の母。現地の少数民族にとっては「侵略者」である漢人だが、当時は「侵略」する側もムリヤリ動員されており、苦労はすさまじかった(Copyright:辣椒/新潮社)


ちなみに著者の辣椒は、私が日本国内で天安門事件や中国民主化問題の関連イベントを取材しているとよく姿を見かける。ただ、反体制的な中国人がフラットな立場で自国批判をおこない、なおかつそれでごはんを食べていくには、日本というのはなかなか難しい部分がある国でもある(こちら過去記事を参照。辣椒の話も少し出てくる)。

本来、風刺マンガという軽妙洒脱な表現手段から中国の問題点を鋭くえぐる書き手は、本来日本人にとっても中国人にとっても非常に得難い存在であるはずだ。

彼が今後も筆を曲げることなく、かつ安定した亡命生活を送れることを……。いや、いつの日か正々堂々と中国に帰国して母親の墓参りができる日が来ることを、陰ながら祈らずにはおれない。


【参考】
 
辣椒の他の作品は、高口康太『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』でも豊富に掲載されている。辣椒本人のバックグラウンドについてはもちろん、かつては民主化の突破口として期待された中国ネット言論の衰退の経緯や、専制体制を受け入れてしまう中国社会の性質についても詳細に説明されているので、興味がある方はあわせて読んでみるといいだろう。

2月28日には、 辣椒と高口氏、東京大学准教授の阿古智子氏の3人で刊行記念対談も予定されている。



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 上記はメルマガの記事の一部を大幅に改稿・再編集したものです。

ある「ドロドロ本」著者の中国人の話

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以前、ある亡命中国人の著述家・P氏と会う機会があった。細かいプロフィールは伏せるが、在外華人社会では名のある人である(ただし、P氏は日本国外在住であり、日本国内でツイッターアカウントを解説したりTVに出たりしている人ではない)。

彼は中国語の演説や文章でキツいことを言っているが、総じて「まとも」な人だ。私が「現代の中国人の若者をどう思われますか? 彼らに中国民主化を担う期待は持てますか。もし持てるなら、どんな点があるでしょうか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「近年、台湾や香港の若者(の学生運動)は素晴らしいものだよ。往年、日本に留学して革命に邁進した中国人留学生たちも素晴らしかった。ただ、現在の大陸の若者は在外留学生を含めて、共産党の統治下で考えをスポイルされているし洗脳されている。実に残念だ。だが、諦めずに少しづつ意識の変化を働きかけていくしかない。たとえ何十年かかってもね」

舌鋒鋭く中国共産党を批判していても、現実的な問題点はちゃんと理解しているらしい。

事実、P氏の語り口はメリハリがあり、惹きつけられるものがあった。主張にすべて同意するかはさておき、彼が往年の中国の学生運動で大勢の人間を動かした当事者であったことも納得がいく。

もちろん、中国で学生や知識人の多くが本気で民主化の実現を信じて街に出た時代からすでに約30年が経っている。怒れる青年であった運動のリーダーたちも、いまや見た目も中身もおじさんになり、なにより性格が丸くなった。こう言っては悪いが、今後の彼らが中国の国内政治に対して重要な中心的役割を担う可能性はほとんどない。

ただ、さすがにリーダークラスの人の心を覗き込むと、往年の猛火の残り火はいくつになっても消えない。P氏もまたそんな一人だった。

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↑北京の街にいたコスプレーヤー。現代の中国は政治問題よりも若者の興味を引くことがたっぷりとある世の中である(2014年8月安田撮影)。

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ところで、このP氏。日本でも何冊か一般書の形で著書を出しているのだが、かなり過激な題名と装丁で、個人的にはちょっと敬遠したい嫌中本みたいな本が多い。当の私自身、ある知人から彼を紹介された当初は、一連の著書への偏見から会う話を断ろうかと思ったくらいだった。

だが、普段は某国で暮らすP氏は、在外民主化人士のなかでは比較的大物であり、その国の選挙権まで持つ極めて合法的な身分、まずまず大きな企業を経営するなど経済的にも困っていない。中国共産党に対してこそ鋭い口調で批判しているが、その素顔は穏健な性格と現実的な分析力を持った中国的知識人だ。

亡命中国人としてはかなり順調な後半生を歩む人が、なぜいまさら日本でアレな感じの本を売る行為に手を染めたのか。自分のキャリアに傷がつくことは考えなかったのか――? その謎は間もなく解けた。

私はP氏と仲良くなり、2時間ほど話し込む機会を得た。そこで判明したのは、P氏がほとんど日本語ができないことと、日本で彼の名で刊行された著作がほぼすべて既刊の中国語書籍の「翻訳書」であることだった。

つまり、P氏の著作は激烈な嫌中本だと思いきや、正体はおおむね普通の本だったのである。

思わぬ方面に迷惑がかかるとよくないのであくまで例えとするが、彼の中国語の原著のタイトルや装丁が仮に以下のような感じだったとする。確かに原著でも中国人が「不愉快」だとは言っているが(あくまでも例えだ)、そもそもP氏自身も中国人であり、まあそう言っていても変な感じはしない。

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だが、その本の日本版の「翻訳書」はだいたい下記のようになる(しつこいが、あくまでも仮の例えだ)。

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もちろん、私は日本市場向けに原題を変える行為自体が悪いとは言わない。地味な原典を目を引く装いの翻訳版に変えて紹介する行為は、むしろ関係者のプロの腕の見せどころだ(例えば映画『天使にラブ・ソングを…』が原題の『Sister Act』(シスターの行為)のままで公開されていたら、きっと日本であそこまでヒットしなかったに違いない)。

また、私は中国の悪口を言ってはダメだとか、「ドロドロした嫌中本」を一切出してはいけないとも思わない。著者が日本人なり、原稿を綴れるくらい日本語ができる中国人(台湾人でも韓国人でもそうだ)なら、自分の名前がついた本や記事をどういう形で世に出すかは本人の責任で判断するべきことだ。いい大人の商業活動なんだから当たり前である。

だが、中国・韓国・親日外国人あたりの話題に関する日本国内のテクストを知らず日本語もできない外国人の著作に、この手の「ドロドロ系」の演出を加える行為は果たしてフェアかという気はする。もちろん日本側の関係者は、著者にちゃんと説明をしているはずだとは思うけれど、そもそも相手は文化を異にする外国人だ。

(例えば日本人の私たちが『困った日本人』という日本社会をボヤく本を書いて、それを自分が読めない韓国語やインドネシア語で翻訳出版された際に『最低最悪の日本人 祖国侵略者のどうしようもない民族性』というタイトルで日の丸が表紙の本にされていたとして、たとえ事前に相手側から説明を受けたとしても先方の刊行意図をちゃんと把握できるだろうか?)


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また、上記に例として挙げた原書の『不愉快な中国人(仮)』が、仮に中国人の心性をぼろかすに批判した内容だったとしても、それでも原文の表現を読むと受ける印象は違ってくる。

昨年話題になった「保育園落ちた日本死ね」の話ではないが、書いた本人は本気で自国や自民族の滅亡を望んでいるわけではなく、なにか深刻な問題を訴えたくてキツい表現で自国の社会や庶民への憤りを示しているだけなのだ。

以下、上記の話に関連してちょっと引用しておこう。

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安田 (略)中国政府に批判的な中国人が現代の日本で言論で食っていく場合、いわゆる嫌中言説というか、右派の読者が喜ぶことを書く方向に行かざるを得ない場合が多いんですよ。真っ赤な表紙でドロドロした題名の書籍を出版したり、国家主義的な論者の方と連名で雑誌の見出しを飾ったりですね。そういう立場にしか商業的な需要がないので。

劉 保守的な媒体でも、自分の意見を載せてくれるならそれでいいのではないでしょうか。誰かに自分の思いが伝わるなら、形にこだわることはないでしょう?(略)

安田 もちろんその通りです。ただ、現実は残酷です。中国政府の批判だけじゃなく、自分の民族(=中国人)を日本人の視点から蔑視するような言説や、歴史修正主義的な言説への加担を求められたり、見出しや表紙の編集を通じて「そういう主張」を作られてしまう場合も多いんですよ。(略)

(略)

劉 本当に心が痛いです。中国人自身が自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判しようとする言説と、無責任な中国蔑視論は本当は異なるものであるはずですから。

出典:安田峰俊・劉燕子 「嫌中か親中か」でしか中国を語れない、日本の閉塞 (講談社現代ビジネス)

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たとえ中国語の原書では「自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判」する文章を書いていても、昨今の日本では「無責任な中国蔑視論」に変えられて世に出てしまう。その気になれば魯迅の本だって、邦題を変えて装丁やオビを工夫すればそういう雰囲気の本に仕立てることが可能だろう。結果として傷がつくのは本人の名誉だ。

私はP氏と初対面であり、自分で責任が取れない問題に無用なトラブルの種をまくのは好ましいことでもないと思ったので、日本語ができる中国人への相談することを勧めただけでそれ以上の詳しい説明は控えた。P氏は上機嫌で山手線に乗り、夕方の別の会食の予定先へと向かっていった。

……なんともモヤモヤした気持ちが残る、ある日の夕方だった。


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 上記はメルマガの記事の一部を大幅に改稿・再編集したものです。

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