飛騨古川に集まる『君の名は。』聖地巡礼中国人(写真多し)

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先日、下記リンクのような内容を文春オンラインに寄稿した。

『君の名は。』聖地に“リア充”中国人集団が殺到中 

内容はリンク先を読んでもらうとして、こちらでは記事中に入り切らなかった写真を紹介していくことにしよう。


 【飛騨古川駅】

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↑私が乗ってきた特急『ひだ』に乗り込む、観光帰りの人たち。ほとんど外国人客だ。

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↑作中で主人公の瀧が、司と奥寺先輩を連れて聞き込みをおこなっていたシーンで出てくるタクシー乗り場。



【飛騨古川市街地】

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↑手前から道路左側に見える4人の人影はすべて中国人。親子連れだった。

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↑浙江省から来たカップル(右)。ちなみに奥は日本人の聖地巡礼者。

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↑飛騨市側は、中国語(繁体字・簡体字)や韓国語で聖地巡礼専用マップを準備。



【まちなか観光案内所】

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↑上に写っている3人はすべて中国人。左の女性のように、一人旅の女性客もけっこういる。

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↑観光案内所内で、来訪者に来た場所のスタンプを押してもらうコーナー。台湾・上海・香港が濃い。



【味処「古川」】

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↑聖地巡礼ノートを置いてお客さんを呼び込む、食堂兼土産物屋。

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↑香港から来ました。

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↑四川省から来ました。你是哪個?

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↑名古屋・下呂・高山・古川のルートで回ったらしい中国人4人組。



【飛騨市図書館】

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↑主人公たちが糸守町の情報を得るために立ち寄った図書館のモデルになった。

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↑マナーの遵守を呼びかけつつ受け入れ。英語と中国語の説明も出したほうがいいようには思う。

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↑香港から来ました。「の」は香港人や台湾人も面白がってよく使います。

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↑台湾から来た。

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↑三葉の歩みをたどって。北京⇔飛騨。

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↑「聖地巡礼」はすでに中国語になっている。

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↑中国愛をアピールされても困るんだが。

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↑「君のは」。日本語難しいです。


飛騨市に聞くと、香港や中国のほかタイあたりのTV局からも取材が来たとのことだ。



……ところで聖地巡礼といえば、私の地元の近所の滋賀県豊郷町も忘れないであげてください。『けいおん』放送からすでに10年近くが経ち、街がさびれています。

どうにかならんのけ?

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在米華人「中国人権問題に無関心っぽいトランプを応援したら裏切られたでござる」という話

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表題のような話を、1月29日付けの文春オンラインに寄稿しました。今後も定期的に寄稿することになると思います。

 トランプ当選を応援したのに裏切られた! 「親中共派」在米中国人たちの憂鬱 (文春オンライン)

昨年の大統領選当時、在米華僑(中国系アメリカ人)のなかには一定の熱いトランプ支持層が存在しており、またその多くは親中国政府派の人々であったという。

トランプはどう考えても中国の人権問題や民主化問題に興味がありそうには見えず、また彼はビジネスマンなので「取引(ディール)」次第で南シナ海問題その他もろもろについても上手く話がつくかもしれない。

加えて、グリーンカードや米国籍を持っている合法的身分の中国人移民にとって、トランプが主張する不法移民排斥はむしろ願ったりの話だ。人種差別うんぬんという話も大して気になることではない(中国大陸のみならず香港・台湾も含めた華人系の人たちが、他のアジア人やアフリカ人・ヒスパニック・ムスリムなどに対して結構ナチュラルに差別的な目線を持ちがちであることは、現地を知っている人ならよく知っている話だろう)。

ここらへんが、昨年11月の大統領選時点までの、親中国政府系在米華僑の思惑であったようだ。

以下、在米華僑のトランプ応援団サイト『Chinese Americans for Trump(CAFT)』の公式ホームページからのスクリーンショット引用の形で、昨秋のトランプ当選のためにやたら頑張っていた華僑のみなさんの勇姿をご紹介しておこう。

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まさにノリノリであった。事実、町山智浩さんか冷泉彰彦さん(いま出先にいるので正確な資料が手元にないのだが多分町山さん)のいずれかのエッセイかご著書でも、華僑系団体が航空機をチャーターして空に横断幕をはためかせていたといったトランプ集会の現場レポートが紹介されていたように思う。

当時のトランプ支持中国人たちについては、下記の動画も面白い。中国語の「我認為~」のアクセントで「I think...」と発音しながらトランプ当選をうったえていたメガネのおっさん(インタビュー2人目)が実にナイスだ。




だが周知の通り、当選後のトランプは蔡英文と直電するわ対中強硬派を政権入りさせるわと、中国にとっては悪夢のような言動を連発している(日本もトランプに困惑しているが、中国はもっと困っているのだ)。彼を支持していた華僑たちもずいぶん困ってるらしい……という話である。

調子こいて魔人ブウを呼び出したら自分の街を破壊されたみたいな実にしょっぱい話なのだが、詳しくは文春オンラインでお読みいただければと思います。


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ある亡命中国人漫画家の『ワイルド・スワン』

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私は中国人や台湾人から話を聞くのが好きである。特に都会の現代っ子の若者からではなく、そこそこ歳をとっている人(40代以上)や、若者でも両親や一族との仲がよくて昔の話をよく聞いている人がいい。なぜなら彼は、現在の社会階層や経済力にかかわらず、いかなる人であっても本人や家族がそれぞれものすごい過去の歴史を抱えているからだ。

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↑鄧小平(中央)がおこなった改革開放政策(右)と天安門事件(左) 。これらにより中国の社会は「安定」した。(Copyright:辣椒)  

例えば私の数歳年上の台湾人の友人は、お父さんが外省人1世の元軍人(ただし参軍は戦後)でお母さんがインドネシア華僑。ご家庭は1950年代まで国民党の残党が戦っていたビルマ東北部にも何か縁があるらしい。2015年夏に『週刊プレイボーイ』の抗日戦争勝利70週年記事でお父さんに取材させてもらったときは、台湾に住む「中国人」の歴史観や国際認識を聞かせてもらって非常に面白かった。

また、別の台湾人の友人はおじいさんが浙江省出身で国共内戦を戦った中華民国軍人で、お父さんが外省人2世の国民党支持者、お母さんが本省人の民進党支持者で、選挙のたびに家のなかでプチ抗争がはじまるのだという。

ほかに中国大陸でも、山西省の閻錫山軍閥の財務高官の娘の子で、満洲旗人の血も引く貴族の出にもかかわらず、社会主義革命と文革で人生が一変した李さんという人がいる(拙著『境界の民』「黒いワイルド・スワン」という章で詳しく書いたので、知りたい人は読んでみてほしい)。

東西線沿線の某繁華街でチャイナパブを経営している上海出身の50歳前後の女性は、老紅軍(中国革命に参加した兵士)の娘で子ども時代は軍人コミュニティの特権的な環境で育ち、上海大学卒業後に青年士官と結婚したが離婚。傷心を抱えつつ、当時はあこがれの国だった日本にやってきて、いろいろ苦労しているうちにチャイナパブのママさんにおさまってしまった。彼女は上海に残ったり他国へ移民した親戚や友人がけっこう出世するなか、自分の人生に思うところもあるようだが、「日本は暮らすだけなら環境がいいからまあいっか」と割り切って、今日も日本の疲れたシャチョーさんを相手に水割りを作っている。

戦後70年以上にわたり政情が安定している日本と違い、中国の安定はせいぜいここ四半世紀、文革終了から数えても40年ほどの話だ(台湾の場合も、民主化からわずか30年も経っていない)。中国人や台湾人にとって、動乱や政治迫害はごく身近な過去であり、また場合によっては現在進行形でわが身に降りかかるものですらある。

ゆえに、彼らの話は面白い。本人やたった一世代前の人が動乱の当事者であり、話の迫力が違うからだ。ユン・チアンの『ワイルド・スワン』さながらの物語は、動乱の時代を生きていた中国人なら、どの家でも形は違えど似たような話があった。

「面白い」といって不謹慎ならば「興味深い」と言い換えても構わない。


【ある亡命中国人漫画家の著作】

以下、本稿で著書を紹介する中国人漫画家・辣椒も、そうした興味深い人生を余儀なくされた一人だ。

中国のウェブ上で人気の風刺漫画家だった彼は、やがて習近平政権下でご政道批判が一線を超えたとみなされたことで、事実上の日本亡命を余儀なくされた。そんな彼の日本での初の単行本が下記である。


 
本書は4コマ漫画であり、辣椒本人が中国国内で当局から受けた弾圧の実態、習近平本人の個性やネット世論工作を用いた個人崇拝の演出、中国抗日ドラマや反日教育の裏事情、日本や台湾の政治への辣椒自身による論評、中国の「紅白」に相当する大型番組・春聯の政治的な裏事情、人民解放軍の裏事情、辣椒の両親の物語――と、内容は多岐に及ぶ。

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↑辣椒が描く現代中国の女性のイラストはけっこう色っぽくて好きである。作中には習近平の娘・明沢も美人設定で登場する(Copyright:辣椒/新潮社) 

辣椒はネット出身の風刺漫画家であり、ネット言論統制の批判や抗日ドラマの裏事情の暴露といった話は、数年前まで中国のネット上に存在した「いちびり精神」を正しく継承している感があって面白い。

いっぽうで第9話で展開される日本の安倍政権や反安保デモについての話は、やや生臭さが強くて個人的にはエピソードの収まりがよくないと感じる(むろん、私も往年の反安保デモの参加者たちはちっとも好きではなく、その主張にもあまり賛同する気になれないのだが)。

やはり本書において別格に興味深いのは、まず本人の実体験にもとづく当局からの弾圧の詳細についてだろう。中国の民主派の人々が「中国版ゲシュタポ」と陰口を叩く国保局員による尋問「被喝茶」(問題人物に対してお茶を名目に面談をおこない圧力をかける行為)や、それを受けた側の安全対策、実際に拘束された際の獄中描写などが、当事者によるマンガのかたちで視覚的に知れるのは極めて貴重だ。

また、私個人としては最終章の両親の話が心を打つ。

文革世代であった彼の両親は、当時は完全な辺境だった新疆ウイグル自治区に下放され、そこで辣椒をもうける。辣椒はなかなか両親と同居できなかったが、深く愛されて育ったことは本書中の描写からも明らかだ。

その後、彼が日本亡命を余儀なくされた後に母をガンで失い、葬儀の様子をネット動画を通じて眺めざるを得なかったエピソードは、大所高所に立ったどんな政治批判よりも強烈に現代の中国の問題点を描き出しているように思う。

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↑新疆を開拓させられた辣椒の母。現地の少数民族にとっては「侵略者」である漢人だが、当時は「侵略」する側もムリヤリ動員されており、苦労はすさまじかった(Copyright:辣椒/新潮社)


ちなみに著者の辣椒は、私が日本国内で天安門事件や中国民主化問題の関連イベントを取材しているとよく姿を見かける。ただ、反体制的な中国人がフラットな立場で自国批判をおこない、なおかつそれでごはんを食べていくには、日本というのはなかなか難しい部分がある国でもある(こちら過去記事を参照。辣椒の話も少し出てくる)。

本来、風刺マンガという軽妙洒脱な表現手段から中国の問題点を鋭くえぐる書き手は、本来日本人にとっても中国人にとっても非常に得難い存在であるはずだ。

彼が今後も筆を曲げることなく、かつ安定した亡命生活を送れることを……。いや、いつの日か正々堂々と中国に帰国して母親の墓参りができる日が来ることを、陰ながら祈らずにはおれない。


【参考】
 
辣椒の他の作品は、高口康太『なぜ、習近平は激怒したのか 人気漫画家が亡命した理由』でも豊富に掲載されている。辣椒本人のバックグラウンドについてはもちろん、かつては民主化の突破口として期待された中国ネット言論の衰退の経緯や、専制体制を受け入れてしまう中国社会の性質についても詳細に説明されているので、興味がある方はあわせて読んでみるといいだろう。

2月28日には、 辣椒と高口氏、東京大学准教授の阿古智子氏の3人で刊行記念対談も予定されている。



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 上記はメルマガの記事の一部を大幅に改稿・再編集したものです。

ある「ドロドロ本」著者の中国人の話

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以前、ある亡命中国人の著述家・P氏と会う機会があった。細かいプロフィールは伏せるが、在外華人社会では名のある人である(ただし、P氏は日本国外在住であり、日本国内でツイッターアカウントを解説したりTVに出たりしている人ではない)。

彼は中国語の演説や文章でキツいことを言っているが、総じて「まとも」な人だ。私が「現代の中国人の若者をどう思われますか? 彼らに中国民主化を担う期待は持てますか。もし持てるなら、どんな点があるでしょうか」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「近年、台湾や香港の若者(の学生運動)は素晴らしいものだよ。往年、日本に留学して革命に邁進した中国人留学生たちも素晴らしかった。ただ、現在の大陸の若者は在外留学生を含めて、共産党の統治下で考えをスポイルされているし洗脳されている。実に残念だ。だが、諦めずに少しづつ意識の変化を働きかけていくしかない。たとえ何十年かかってもね」

舌鋒鋭く中国共産党を批判していても、現実的な問題点はちゃんと理解しているらしい。

事実、P氏の語り口はメリハリがあり、惹きつけられるものがあった。主張にすべて同意するかはさておき、彼が往年の中国の学生運動で大勢の人間を動かした当事者であったことも納得がいく。

もちろん、中国で学生や知識人の多くが本気で民主化の実現を信じて街に出た時代からすでに約30年が経っている。怒れる青年であった運動のリーダーたちも、いまや見た目も中身もおじさんになり、なにより性格が丸くなった。こう言っては悪いが、今後の彼らが中国の国内政治に対して重要な中心的役割を担う可能性はほとんどない。

ただ、さすがにリーダークラスの人の心を覗き込むと、往年の猛火の残り火はいくつになっても消えない。P氏もまたそんな一人だった。

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↑北京の街にいたコスプレーヤー。現代の中国は政治問題よりも若者の興味を引くことがたっぷりとある世の中である(2014年8月安田撮影)。

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ところで、このP氏。日本でも何冊か一般書の形で著書を出しているのだが、かなり過激な題名と装丁で、個人的にはちょっと敬遠したい嫌中本みたいな本が多い。当の私自身、ある知人から彼を紹介された当初は、一連の著書への偏見から会う話を断ろうかと思ったくらいだった。

だが、普段は某国で暮らすP氏は、在外民主化人士のなかでは比較的大物であり、その国の選挙権まで持つ極めて合法的な身分、まずまず大きな企業を経営するなど経済的にも困っていない。中国共産党に対してこそ鋭い口調で批判しているが、その素顔は穏健な性格と現実的な分析力を持った中国的知識人だ。

亡命中国人としてはかなり順調な後半生を歩む人が、なぜいまさら日本でアレな感じの本を売る行為に手を染めたのか。自分のキャリアに傷がつくことは考えなかったのか――? その謎は間もなく解けた。

私はP氏と仲良くなり、2時間ほど話し込む機会を得た。そこで判明したのは、P氏がほとんど日本語ができないことと、日本で彼の名で刊行された著作がほぼすべて既刊の中国語書籍の「翻訳書」であることだった。

つまり、P氏の著作は激烈な嫌中本だと思いきや、正体はおおむね普通の本だったのである。

思わぬ方面に迷惑がかかるとよくないのであくまで例えとするが、彼の中国語の原著のタイトルや装丁が仮に以下のような感じだったとする。確かに原著でも中国人が「不愉快」だとは言っているが(あくまでも例えだ)、そもそもP氏自身も中国人であり、まあそう言っていても変な感じはしない。

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だが、その本の日本版の「翻訳書」はだいたい下記のようになる(しつこいが、あくまでも仮の例えだ)。

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もちろん、私は日本市場向けに原題を変える行為自体が悪いとは言わない。地味な原典を目を引く装いの翻訳版に変えて紹介する行為は、むしろ関係者のプロの腕の見せどころだ(例えば映画『天使にラブ・ソングを…』が原題の『Sister Act』(シスターの行為)のままで公開されていたら、きっと日本であそこまでヒットしなかったに違いない)。

また、私は中国の悪口を言ってはダメだとか、「ドロドロした嫌中本」を一切出してはいけないとも思わない。著者が日本人なり、原稿を綴れるくらい日本語ができる中国人(台湾人でも韓国人でもそうだ)なら、自分の名前がついた本や記事をどういう形で世に出すかは本人の責任で判断するべきことだ。いい大人の商業活動なんだから当たり前である。

だが、中国・韓国・親日外国人あたりの話題に関する日本国内のテクストを知らず日本語もできない外国人の著作に、この手の「ドロドロ系」の演出を加える行為は果たしてフェアかという気はする。もちろん日本側の関係者は、著者にちゃんと説明をしているはずだとは思うけれど、そもそも相手は文化を異にする外国人だ。

(例えば日本人の私たちが『困った日本人』という日本社会をボヤく本を書いて、それを自分が読めない韓国語やインドネシア語で翻訳出版された際に『最低最悪の日本人 祖国侵略者のどうしようもない民族性』というタイトルで日の丸が表紙の本にされていたとして、たとえ事前に相手側から説明を受けたとしても先方の刊行意図をちゃんと把握できるだろうか?)


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また、上記に例として挙げた原書の『不愉快な中国人(仮)』が、仮に中国人の心性をぼろかすに批判した内容だったとしても、それでも原文の表現を読むと受ける印象は違ってくる。

昨年話題になった「保育園落ちた日本死ね」の話ではないが、書いた本人は本気で自国や自民族の滅亡を望んでいるわけではなく、なにか深刻な問題を訴えたくてキツい表現で自国の社会や庶民への憤りを示しているだけなのだ。

以下、上記の話に関連してちょっと引用しておこう。

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安田 (略)中国政府に批判的な中国人が現代の日本で言論で食っていく場合、いわゆる嫌中言説というか、右派の読者が喜ぶことを書く方向に行かざるを得ない場合が多いんですよ。真っ赤な表紙でドロドロした題名の書籍を出版したり、国家主義的な論者の方と連名で雑誌の見出しを飾ったりですね。そういう立場にしか商業的な需要がないので。

劉 保守的な媒体でも、自分の意見を載せてくれるならそれでいいのではないでしょうか。誰かに自分の思いが伝わるなら、形にこだわることはないでしょう?(略)

安田 もちろんその通りです。ただ、現実は残酷です。中国政府の批判だけじゃなく、自分の民族(=中国人)を日本人の視点から蔑視するような言説や、歴史修正主義的な言説への加担を求められたり、見出しや表紙の編集を通じて「そういう主張」を作られてしまう場合も多いんですよ。(略)

(略)

劉 本当に心が痛いです。中国人自身が自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判しようとする言説と、無責任な中国蔑視論は本当は異なるものであるはずですから。

出典:安田峰俊・劉燕子 「嫌中か親中か」でしか中国を語れない、日本の閉塞 (講談社現代ビジネス)

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たとえ中国語の原書では「自分の民族の精神的な宿痾みたいなものをえぐって批判」する文章を書いていても、昨今の日本では「無責任な中国蔑視論」に変えられて世に出てしまう。その気になれば魯迅の本だって、邦題を変えて装丁やオビを工夫すればそういう雰囲気の本に仕立てることが可能だろう。結果として傷がつくのは本人の名誉だ。

私はP氏と初対面であり、自分で責任が取れない問題に無用なトラブルの種をまくのは好ましいことでもないと思ったので、日本語ができる中国人への相談することを勧めただけでそれ以上の詳しい説明は控えた。P氏は上機嫌で山手線に乗り、夕方の別の会食の予定先へと向かっていった。

……なんともモヤモヤした気持ちが残る、ある日の夕方だった。


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 上記はメルマガの記事の一部を大幅に改稿・再編集したものです。

中国人民労働者部隊、ヨルダン川西岸ユダヤ人入植地に進出!(するかも)

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某東●スポーツみたいな見出しになってしまったが、現時点ではあくまで比較的高い可能性を論じるだけの話なのでこう書くよりほかはない。

前の開封のユダヤ人の話が比較的好評だったため、イスラエル・中国両国関係の記事に注意していたら以下のような話が出てきた。私の普段のネット検索の結果を反映したらしく、Google先生の広告の表示が素敵だがそこは気にしないでほしい。

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China agrees to send 6,000 construction workers to Israel (『Al-Masdar News』)


他の報道内容もあわせてまとめると、中国・イスラエル両政府は中国籍の建築労働者多数のイスラエルへの送り出しで一致。正式合意は2月末の予定で、その後半年以内に6000人の中国人がイスラエル側に受け入れられる見込みという。

近年、イスラエルは堅調な経済発展を続けており、昨年8月の同国政府報告でも不動産価格の上昇率は年8%。イスラエル側の理屈だと、とにかく住宅が足りず建築現場が人手不足で困っているので、ぜひとも中国人労働者に来てもらいたいんだそうである。

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↑いろいろ建設中のテルアビブ市内。ワーカーの需要があるのはわかります(2016年2月安田撮影)。



こうしたニュースを聞くと、例によって「中国がゴリ押しで自国民を他国に送り込んで面倒なことをやりたがっている話か?」と思ってしまうのだが、いくつか関連報道を見る限りそうではなさそうだ。受け入れを強く要求しているのはむしろイスラエル側(の少なくとも一部の人たち)なのである。

事実、ネタニヤフ政権下のイスラエル内閣は2年前の9月にも中国人労働者2万人の受け入れを決定。ただ、このときは中国政府側と正式な協議が結ばれていなかったため、イスラエルの検事総長(当時)が「労働者が中間ブローカーに搾取される」可能性を指摘して反対したと伝わる。ゆえにこの話はしばらく宙に浮いていたが、同国財政相が昨年末からふたたび話を蒸し返しはじめ、今回の決定に至った模様である。

中國以色列草簽6千人勞工協議 杜絶人口販賣 (『澎湃新聞』)

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実のところ、今回の報道は若干引っかかるところがある。国家間の「正式合意」が2月末の予定の話が、なぜ1月5日に表に出たのだろうか? しかもこの話は中国政府が明らかにしたわけではなく、中国側諸報道を見る限りイスラエル内務省と財務省の側が勝手に発表したものらしいのだ。

事実、中国当局のオフィシャル色が強いメディアは、本件について「イスラエル現地紙『ザ・エルサレムポスト』によると」とか「ドイツの『ドイチェ・ヴェレ』によると」みたいな書き方をしている。中国の報道におけるこの手の表現は、自国政府が必ずしも同意していなかったり明確な立場を明らかにしていないときに、ひとまず事実関係を伝えたい際におこなわれる一種のお約束の文法である場合が多い。

中国はどちらかというとこの話に微妙な立場かと思われる。私がそう書く根拠は、前回2015年の中国人労働者2万人派遣の話が、本当に「中間搾取への懸念」だけの理由でポシャったのか否か疑問があるからだ。実は当時、2015年6月付けで中国側で以下のような記事が出ている。

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以色列:中國拒絶派工人幇以建約旦河西岸定居點 (観察者網)

つまり、ヨルダン川西岸のイスラエル占領地域におけるユダヤ人入植地の建設現場に、中国人労働者をガンガン入れてもらっては困りますというわけだ。

本文を読むと、イスラエルのネタニヤフ首相が中国人労働者の入植地建設への参加を求めており、この問題が両国の合意の最も大きな障害となっていたことがわかる。ちなみに言うまでもなく、中国は国連常任理事国で、公的な立場としてはパレスチナ問題についてイスラエル非難決議を支持する側である。

中国はもともとイスラエルと非常に疎遠だった(中国は第三世界の旗手たる反帝国主義の社会主義国、という顔も当事者的にはいちおう持っているのだ)が、習近平が一帯一路政策を構想中の2014年春ごろから急接近を開始した。よくよく考えてみれば、中国にとってイスラエルは軍事関連やらIT・医療関連の先端技術やら彼らが欲しいものをどっさり持っているパラダイスであり、イスラエルにとっても中国は国防上の脅威にならずカネもいっぱい払ってくれる国なので、いざ組んでみるとうれしい相手だったのだ。

だが、そんな中国とはいえ、従来のアラブ諸国との関係もそれなりに大事なので、パレスチナ問題で不用意にイスラエルの占領・入植行為を追認する動きはできない。少なくとも2015年時点ではそう判断したようである。

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↑東エルサレムのアラブ人街(2016年2月安田撮影)。

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ところが、(おそらく)そんな事情でいちどは破談になったのに、再び労働者派遣の件が決まりそうな気配の昨今だ。イスラエル側が正式合意の前に話をおおやけにしたのも、この件の既成事実化を狙った目的かと思われる。

昨年12月23日、国連安保理はアメリカの棄権によってイスラエル非難決議を1979年以来久しぶりに採択した。今回のイスラエルの動きと、中国人労働者受け入れ要求の再浮上は決して無縁の話ではあるまい。

今回の労働者6000人派遣の件について、中国政府の反応はどうか? 1月5日、中国外交部のスポークスマンは定例記者会見で意見を尋ねられてこう答えている

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――報道によると、中国は数千万人の労働者をイスラエルに派遣することで同意したといいます。これをどのように評価されますか?

具体的な事情については関係部門に問い合わせてほしい。

中国とイスラエルは国交樹立以来、両国は経済貿易・科学技術・学術などを含む各領域における実務的協力関係のなかで常にポジティヴな成果を得てきたことを強調しておきたい。中国は継続してイスラエルとともに、両国の各領域の実務的協力関係を深化させ、両国と両国の人民に幸福をもたらすことを望んでいる。


――中国の建設労働者はパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地の建設にたずさわりますか? これは中国のパレスチナ問題に対する立場に影響するのではありませんか?

中国のパレスチナ問題における立場は一貫して明らかで、変わることはない。我々は東エルサレムやヨルダン川西岸地域などのパレスチナにおける(イスラエルに)占領されたユダヤ人入植地でのユダヤ人入植地の建設に反対しており、国連安保理が過日に採択した2334号決議はこの問題について明確な要求をおこなっている。


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つまり、従来のパレスチナ問題に対する中国の立場を強調しただけで、「ユダヤ人入植地の建設に中国人労働者が携わることはありません」とは決して言ってないわけである。

昨今の中国とイスラエル両国の関係は、相互のビザ緩和や中国企業による投資の推進など(特にIT関連分野ではアリババ・百度・テンセント・レノボ・ファーウェイなど大手各社がイスラエルに拠点を設けている)、2015年当時と比較してもなおいっそう緊密化した。前回は難色を示した話ではあるが、今回はまあ黙認しますという姿勢とみられる。


……ヨルダン川西岸地区の占領地で、黙々とユダヤ人入植地の建物建設に励む中国人民の群れ。想像するとなかなか未来感とディストピア感が半端ない光景であり、今後の推移に注目したいところである。

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↑テルアビブ空港を埋め尽くす中国人旅行客の群れ(2016年2月安田撮影)。

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